サラリーマンでありながら海外の映画祭でグランプリを受賞した長久允氏。その思考法と脚本術を存分に伝える『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』が発売となりました。佐久間宣行さん、ラランド・サーヤさんも大絶賛の同書から、抜粋・再構成して特別公開します。

脚本の教室Photo: Adobe Stock

「お前の企画って暗いから」

 CMプランナーになって、「超ヒットCMをガシガシ作るぞ!」と意気込んでいたのですが、そう簡単にはいきませんでした。そんなに甘くないですよね、世の中って。

「お前の企画って暗いから、もっと明るい案を出さないとチームから外れてもらうよ」
「このセリフは世界観あって気になるけど、商品購買のためにはいらないね」
「お前はサブカルだからお前がおもしろいと思うもの、じゃなくて、たくさんの人の心が動くものを作らないとダメだよ」

 などなど。これらは実際に先輩方からいただいたお言葉です。

 広告を作る上で、全部正しいと思います。

 CMは明るくみんなのもの。私はその領域でうまく企画することがどうしてもできませんでした。

 今となっては私の得意なフィールドと広告というものとの相性が悪かったんだなと思えますが、当時は悩み苦しみました。心を消して死に物狂いで頑張っても、結果がついてこない日々が続きました。

大手CMからスーパーの店頭ビデオへ

 ということで、大企業のCM作業からフェードアウトしていった私は、スーパーの店頭ビデオを作る、という比較的小規模な仕事に移行していきます。

 店頭ビデオの仕事はやりがいがありました。

 タスマニアビーフのステーキをどう撮ったら一番おいしそうに見えるか? どの距離感で撮ったらスローモーションでジューシーさが伝わるのか? どんな音をつけたら興味のない買い物中の人が振り向くのか?

 テレビCMとは違って(本来は違ってはいないんだけど)私の作った映像を見る、お客さんの顔がイメージできました。その映像を見て、どういう気持ちになってほしいかが、明快でした。

 私の作った店頭ビデオを流すと、今までのものよりも売れ行きが上がり、クライアントさんは喜びました。

 CMはうまく作れないけれど、コピーライターの賞は獲れないけれど、広告の雑誌には載らないけれど、クライアントさんが喜んでくれてるし、とても幸せな仕事だな。そう感じていました。

 そう自分で自分に言い聞かせて、たくさん映像を納品しました。

まずひとつ、自分が「心から最高だ」と思えるものを作る

 でも結果的に、10年ほどで体力の限界がきて、動けなくなりました。
 そこで、学生のとき映画監督になりたかったことを思い出したのです。

 どうして私は、こんなにも、死にそうになりながら、命を捧げながら、誰かが作った商品を「なんとなくいい」と思わせることに時間を使っているのだろうか。

 自分が作りたい物語があったはずなのに。
 自分には伝えたいメッセージがあったはずなのに。

 どうして、タスマニアビーフを、ペットボトルのお茶を、発泡酒を、スマホゲームを、スナック菓子を、ゼリー飲料を、携帯電話の学割プランを、伝えることに、私の命をこんなにもすり減らして生きているのだろうか。と。

 32歳でそれに気づいてから、有休10日で映画を撮り、映画祭でグランプリをいただけました。今では、ハリウッドといくつものプロジェクトで脚本の仕事をしています。

 映画について細かい技法はたくさんあれど、何と言っても、この遠回りがなければこの気づきはなかったと思います。

 それは「それっぽさ」の反対にある場所。他者の目を気にせず、評価を求めずに作ることが、自分が本当に求めた道にたどり着く方法だったのです。

 だから今、同じような悩みに直面している若いクリエイターに会ったら私は言います。
「その反対側に走って行け!」と。

 とにかく「まずは自分が最高だと思えるものを作ってみる」ということ。すべてはそこから始まります。