数々の映画祭で日本人初の快挙を成し遂げてきた映画監督・脚本家の長久允氏。その思考法と脚本術を存分に伝える『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』が間もなく発売となります。佐久間宣行さん、ラランド・サーヤさんも大絶賛の同書から、抜粋・再構成して特別公開します。

脚本の教室Photo: Adobe Stock

世界が知りたいのはあなたの声

 ハリウッドで脚本の仕事をしていると、必ず聞かれることがあります。それは、脚本の構成への質問や、セリフの意図などの細かいことではありません。

 “What’s your VOICE?”
 あなたのボイスは何ですか?

 ということについてです。

「この作品を通してあなたが伝えたいことは何なのか?」
「何を視聴者に、あるいは社会に投げかけたいのか?」
「それはあなたのどのようなバックグラウンドからそう表現しているのか?」
「そのバックグラウンドは特に、人種的な、文化的な、家庭的な、社会的な状況から来るものなのか?」
 などをはじめに聞かれます。

 つまり、簡単に言うと「どうして君はこの映画を作りたいのか?」という質問です。

提案にも動機が求められる

 ただただ練られた脚本であるかどうかよりも、なぜこの映画が社会に必要だと感じているのかを問われるのです(圧倒的に個人的で、社会と切り離されている題材の場合も、それはそれで社会と関連した結果であるととらえられます)。

 打ち合わせや提案の場では、まずはじめにこれらのことを擦り合わせて、それに対しての共鳴があったあとに、やっと具体的な脚本内容のやりとりが開始されます。

 オリジナル作品の持ち込みである場合はもちろんのこと、先方からのオファーですでに企画がある場合でも、こちら側に脚本家としての「なぜこれをやるべきなのか?」という強い意志と意図を設定する必要を感じています。

 私は「映画は社会への機能があるべき」派なので、ここから始まるのはとても安心できます。

スタートは散らかっていていい

 その上で、書き手としての私は「何を書くべき」なのか?
 そのテーマを見つけるにはどうしたらいいのか?

 スタートはいつだって散らかっていていいと私は思っています。大きなテーマでももちろんいいし、テーマはあとからついてくるとして、ほんの小さなイメージの断片でもいい。

 こんな風景が描きたいとか、このセリフをあの人が言ってほしいとか、この音楽を流したいとか。

 とにかくポイントは思い込むことで、この時点での使命感の感じ方、思い込みの強さこそ、のちのち制作時に映画の強度を上げていくのです。