日本でも数少ない老眼対策のエキスパートで、話題の書籍『100歳アイ』の著者でもある眼科医・伊勢屋貴史さんへの特別インタビュー。今回は、専門家ならではの老眼対策について聞きました。なんと「7種類の目」を使い分けているといいます。(構成 言語化工房)
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眼鏡3本+コンタクト3種類で「7つの目」を使い分け
――眼科医であり、老眼対策のエキスパートである伊勢屋さんご自身はどのような老眼対策をしているのでしょうか。
私は45歳のときに老眼の症状を自覚して累進レンズの眼鏡を使い始めました。現在は仕事柄もあり、意識的に眼鏡やコンタクトレンズを使い分けています。眼鏡は3種類、コンタクトも3種類、そして裸眼のままというときもありますので、いわば「7種類の目」を使い分けているということになります。
――7種類の目! 何だかちょっとかっこいいですね。詳しく教えていただいていいですか。
まず三つの眼鏡ですが、一つは日常用です。累進レンズで、かけていて疲れないよう、遠くの見え方は車の運転に差し支えがない程度の、ほどほどの度数に調整してあります。普段の生活やクリニックでの診察など、一番よく使うのがこれです。
二つ目は、近くを見るとき用です。こちらも累進レンズですが、近くの見え方を強化してあって、読書をしたり、原稿を書いたり、手元で細かい作業をしたりするときに使います。
三つ目は、趣味でやっているスカッシュ用です。スカッシュは四方を壁で囲まれたコートで行うテニスのようなスポーツですが、目を保護するためのゴーグルか眼鏡の着用が推奨されているんです。こちらはプレー中しか使わないので、ボールがはっきり見えるよう、遠くの見え方を強めにしています。
――日常用、近く用、スカッシュ用。生活のシーンに合わせた眼鏡を作っているんですね。
はい。コンタクトも3種類あります。一つはちょっとしたスポーツ用です。遠近両用コンタクトで、度数は日常用の眼鏡と同じぐらいにしています。普段は眼鏡ですが、バレーボールなどで軽く体を動かすときはやっぱりコンタクトの方が楽ですから。
二つ目は趣味のカーレース用です。ヘルメットをかぶるのでコンタクトが便利なのと、レース中は遠くの状況を素早く把握したいので、遠近両用ですが遠くの見え方を強化してあります。
三つ目は卓球用です。ボールの回転まで見極める必要があるので、遠近両用ではなく単焦点の近視用コンタクトにして、しかも遠くの見え方をかなり強化しています。卓球の試合中はこのコンタクトでめちゃくちゃよく見える目を手に入れています。
――スカッシュだけかと思ったらカーレースに卓球とは、多趣味!
いやいや、お恥ずかしい。そして最後に、裸眼という選択肢も持っています。今の私の目は遠くを見る視力が0.7程度で、近くの見え方は「がんばればなんとか……」というレベルです。0.7あれば車の運転もできるので、あまり近くを見なくていいときなどは眼鏡もコンタクトも外して、リラックスして過ごすこともあります。
シチュエーションや目的によって眼鏡やコンタクトを使い分けるといい
――TPOに合わせて「目を使い分ける」という発想はありませんでした。とても参考になります。
もちろん、目の状態や趣味、生活スタイルは人それぞれですので私のラインナップが参考になるとは限りませんが、シチュエーションや目的によって眼鏡やコンタクトを使い分けるという考え方は、是非みなさんも採り入れてみてほしいと思います。
たとえば、普段から度数が強すぎる眼鏡を使うと疲れてしまいますが、手芸や模型をやっているときなら手元がくっきり見えるほうが没頭できますよね。様々なシーンで「ちょっと見えにくいな」と感じたら、そのシーンに合わせた眼鏡やコンタクトを作ることでストレスを大幅に軽減できますよ。
――ところで、眼科医といえばみなさん老眼にも詳しいんだろうと考えていたのですが、眼科医の中でも老眼対策のエキスパートが数少ないのはなぜですか。
実は、眼科医の多くはレンズ度数などを記した眼科処方箋を出すことはあっても、自分自身で眼鏡を作ることはありません。コンタクトを取り扱っている眼科は時折見かけますが、眼鏡もコンタクトも扱っているという眼科はそもそも珍しいんです。そして、眼鏡を作るための視力検査も、「看護師」や「視能訓練士」という眼科医とは別の視覚を持つ人が担当していることが多いんです。
私自身も、大学にいたり大きな病院に勤務したりしていたころは、目にメスを入れる手術をすることは数多くあっても、老眼対策のための眼鏡やコンタクトのことをくわしく勉強したり、実際にかかわったりすることはほとんどありませんでした。
「日本一眼鏡とコンタクトに詳しい眼科医」を目指して
――えーっ、意外です。では、伊勢屋さんはなぜ老眼対策に詳しいのですか。
私は36歳で独立して自分のクリニックを開業したのですが、そのとき、先に開業していた先輩から「他のクリニックと差別化するために、眼鏡やコンタクトを本格的に扱ってみたら?」というアドバイスをもらったんです。自分のクリニックで眼鏡とコンタクトを扱おう、しかもそれを他のクリニックと差別化するための「売り」にしようというわけですから、眼鏡やコンタクトにめちゃくちゃ詳しくならなくてはいけない。
そう考えた私は最新の眼鏡やコンタクトについて猛勉強を重ね、患者さんと対話し、腕を磨き、様々な症状にぴったりの眼鏡やコンタクトを自在に作れる「日本一眼鏡とコンタクトに詳しい眼科医」に近付こうと努力を重ねてきたというわけです。
――老眼に限らず、眼鏡とコンタクト全般に詳しいわけですね。
その中でも、老眼対策の専門家を名乗ろうと考える転機になったのは、45歳の時でした。
文字の小さい文庫本を読むのを無意識に避けていることに気付き、初めて自分自身に老眼の症状が現れていることに気付いたんです。そこで、自分の知識と経験を総動員して自分自身に老眼対策を施したところ、おもしろいように老眼の不便がなくなり、これまで通りの、いえそれ以上に若々しい見え方で生活することができたんです。
そのメソッドや経験を患者のみなさんに伝えたところ、「老眼の苦労から解放された」「もっと早く相談すればよかった」とたくさんの感謝の声をいただきました。人にはない自分の強みがここにあることを発見し、老眼対策のエキスパートとしての道を究めようと決めたのです。
――いわば、ご自身を実験台にして老眼対策を極めたわけですか。
そうとも言えますね。現在はクリニックで患者さんと向き合うかたわら、「ドクター・ローガン」を名乗って、SNSや講演などで老眼に悩む人をなくそうと活動しています。
初めての著書「100歳アイ」を出版したのも、その活動の一つなんです。






