2007年のBNPパリバショック、2008年のリーマン・ショックで、みつさんの主力投資先だった新興不動産株は、壊滅的な下落に見舞われてしまう。すると今度は一転、3年連続でマイナス収支に陥った。

 「単にPERやPBRが割安だというだけで、判断してはいけなかった。不動産市況が悪化していたのに、粘って買ってしまった」と猛省。これをきっかけに投資スタイルを根本から変え、2009年以降は2018年を除き、ほぼ安定してプラスを積み上げてきた。

「配当が伸びる株」を買う
割安×増配=大化けの方程式

 みつさんの投資は、バリュー(割安株)投資を軸にしつつ、「配当の成長性」を最重視するスタイルへと進化した。その極意は次の3つだ。

極意(1) 株主還元の強化による「増配余地」を狙う

 今、配当利回りが高いというだけではなく、「将来、配当を増やしてくれそうな株」を買う。増配する株は、利益成長と市場評価(PERやPBR)の拡大が、ダブルで狙えるためだ。この2つが同時に起こると、地味な割安株でも劇的な上昇が期待できる。

 手順としては、まず足元の配当利回りが4%以上の株をスクリーニングし、その中から、「増配」や「株主還元強化」が見込める株を洗い出す。

 たとえば、「ROEを上げる」という目標は、ため込んだ利益を配当や自社株買いに回すという強いシグナルになる。また「会社四季報」をよく通読しており、「復配」や「還元強化」といったキーワードに注視している。

極意(2) 「期待値」に誠実に向き合い、自分の買値は忘れる

 みつさんが重視するのが、「期待値に対して誠実に意思決定する」ことだ。株価が下がった時に、「持ち続けていれば上がるかもしれない」という願望を抱いたり、逆に少し上がったからと、安易に利益確定するのは間違いだという。

 みつさんは、「期待値」について、次のように説明する。

【選択肢A】 100%の確率で4000円もらえる。
→期待値は4000円

【選択肢B】 80%の確率で6000円がもらえ、20%の確率でハズれる。
→期待値は6000×80%で4800円

 多くの人は確実に4000円がもらえるAを選びがちだが、期待値で考えるとBを選ぶほうが合理的だ。

「投資も同じです。感情ではなく、期待値で判断することが大事。自分の買値で判断するのではなく、その時点での期待値を考えます」

 では、1000円で買った株が1500円になったケースで考えてみよう。

 みつさんは、ここで立ち止まり改めて期待値を考える。その時点での業績や株価の割安度を分析し、「60%の確率で3000円になるけど、40%の確率で800円になる」と判断したとする。

【選択肢C】 今売って、確実に500円の利益を得る。
→期待値は1500円×100%=1500円

【選択肢D】 保有を継続する。
→期待値は3000円×60%+800円×40%=2120円

 多くの人は、確実に500円の利益を得る選択肢Cを選びがち。しかし、みつさんは選択肢Dを選ぶ。そればかりか、買い増すという。

極意(3) 株価上昇の初期に売らず、むしろ買い増す

 株価が少し上がり含み益が出ると、つい利益確定してしまいたくなる。しかし、みつさんは「上昇初期に売らない」ことを徹底している。

「株価が上がり始めた初期段階には、最初に利益確定する人たちの“売り圧力”があります。その売りが消化されると、株価の上昇は一気に加速します」

 売り時は、将来の配当利回りから逆算する。将来の増配見込みで、「まだ配当利回りが高い」と判断できるうちは売却しない。将来の配当利回りが一般的な水準まで低下したと判断したとき、売却を考える。

実際の売買事例から見る
株価2倍でも「買い増し」の根拠

 ここからは、実際の売買事例から、みつさんの投資スタイルをさらに紐解いていこう。まずは大きく利益を上げたエスケーエレクトロニクス(6677)の事例だ。

エスケーエレクトロニクスの週足チャートチャート提供:マネックス証券
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(1)四季報から株主還元の強化を嗅ぎ取る

 最初に目をつけたのは2023年の春。会社四季報に「配当性向20%以上目標」と、株主還元強化を匂わせる記述を見つけたためだ。当時のPERは6~7倍と割安で、会社側は正式な発表をしていなかったが、方針変更によって大化けするポテンシャルがあると判断した。

(2)大幅増配で株価が急騰したが、あえて「買い増し」

 その読みは的中。8月には大幅増配を発表し、株価は1500円台から一気に2800円台まで急騰した。十分な含み益が発生し、ここはいったん利益確定してもいい場面だったが、みつさんの行動は異なった。

「株価は急騰しましたが、その時点で配当利回りを計算すると5%前後あり、まだ割安で、上がる確率は高いと思えました」

 つまりそれは、期待値も高いということ。そこで自分の買値に捉われず、買い増しを実行。その後も株価は続伸し、利益をさらに拡大することに成功した。

川崎汽船は、純資産の蓄積と
アクティビストの参画による株主還元に注目

 続いて、川崎汽船(9107)のケース。「純資産」と「株主還元の強化」を見抜いて莫大な利益を上げた。この銘柄だけで、それまでの3年間の利益総額の10%(約2900万円)を稼いだ。

川崎汽船週足チャートチャート提供:マネックス証券
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(1)市場は業績悪化を敬遠したが、みつさんは「純資産」に注目

 海運会社は、コロナ禍によるコンテナ運賃の高騰を背景に、莫大な利益を稼いだ。海運大手3社(川崎汽船、日本郵船、商船三井)を分析した結果、2021年8月ごろから川崎汽船の株を買い始めた。

 その後、コンテナ船運賃がピークアウトすると、市場は特需の終わりによる業績の悪化を懸念、2022~23年には株価も軟調になった。しかし、みつさんは、1株利益の増減だけでなくバランスシート(BS)に着目した。

 「コロナ禍の特需によって莫大な利益がもたらされ、BSの純資産が分厚く蓄積されていました。加えて、株価はPER1倍台と異常に割安な水準でした」。そこで、市場の暴落懸念をよそに強気でホールドした。

(2)アクティビスト参画と還元強化で株価急騰

 もう一つ強気で持ち続けられた理由が、モノ言う株主(アクティビスト)の存在だ。旧村上ファンドの系譜を汲む、エフィッシモ・キャピタル・マネージメントが社外取締役を送り込むなど、経営と一体となって資本効率の改善を進めていた。

 結果、大幅減益が見込まれる局面でも、大規模な自社株買いなど強力な株主還元を繰り返し実行し、株価は急上昇を遂げた。

 川崎汽船は、足元の現在の配当利回りは約5%と依然として高いが、将来の配当増加の見込みが薄いと判断し、すでに大部分は売却済みだ。

 「自分の買値は気にしない」――。大きな恩恵を受けた銘柄でも、現在の期待値が薄れれば未練なく手放す。さらなる株価上昇の可能性(=期待値アップ)と、株価下落の可能性(=期待値ダウン)の情報や条件を、常に天秤にかけながら、期待値を冷静に探る合理性を貫くのが、みつさん流の投資法だ。

本記事は2026年3月17日時点で知りうる情報を元に作成しております。本記事、本記事に登場する情報元を利用してのいかなる損害等について出版社、取材・制作協力者は一切の責任を負いません。投資は自己責任において行ってください。