AIが「使えるかどうか」は、人間側の「使い方」で決まります。
そう語るのは、グーグル、マイクロソフト、NTTドコモ、富士通、KDDIなどを含む600社以上、のべ2万人以上に思考・発想の研修をしてきた石井力重氏だ。そのノウハウをAIで誰でも実践できる方法をまとめた書籍『AIを使って考えるための全技術』が発売。全680ページ、2700円のいわゆる“鈍器本”ながら、「AIと、こうやって対話すればいいのか!」「値段の100倍の価値はある!」との声もあり話題になっている。思考・発想のベストセラー『考具』著者の加藤昌治氏も全面監修として協力し、「これを使えば誰でも“考える”ことの天才になれる」と太鼓判を押した同書から、AIの便利な使い方を紹介しよう。(構成/ダイヤモンド社・石井一穂)

頭のいい人だけが知っている、ChatGPTの「99%の人が知らない使い方」・ベスト1Photo: Adobe Stock

AIを使って「未来でも通用するアイデア」を考える

 AIを仕事の効率化や自動化だけに使うのは少々もったいない。新しいアイデアを考えたり、問題解決をしたりといった、「頭を使う作業」にもAIは活用できます。

 ただし、適当な聞き方をしても、質の良い回答は得られません。ロクでもない回答が返ってきてしまうときには、人間側の質問(プロンプト)が適切でないことがほとんどなのです。

 たとえば、変化が予測できない未来でも通用するアイデアを考えることにも、AIは活用できます。それが、『AIを使って考えるための全技術』で紹介されている技法「先見倍歴」です。
 こちらが、そのプロンプトです。

<技法「先見倍歴」の指示文(プロンプト)>

「先見倍歴」という未来予測の方法を定義します。
①対象(「製品」または「事業」)を取り巻く現時点の「社会環境」と「技術要素」について列挙します。
②それら(「環境要素」と「技術要素」)の過去30年の変化を洗い出します。
③その変化分と同じだけ、現在の時点から発展させたら、それら(社会環境や技術要素)はどのぐらい変わるか、を推定します。
④過去30年の変化分は、未来の15年間の変化分に相当すると仮定します。未来(15年後)に対象を取り巻く「社会環境」や「技術環境」をもとに、未来の対象(「製品」または「事業」)の姿を構想します。
この「先見倍歴」を用いて〈アイデアを得たい対象を記入〉の15年後の姿を予測してください。

※「15年後」を予測する場合を書いています。状況に応じて書き換えてください
――『AIを使って考えるための全技術』(199ページ)より

過去を振り返って、未来を洞察する

「未来のアイデアを考えてください」と言われても、何から考えればいいかわからないですよね。

 10年後を想像しようとしても突飛な発想になったり、逆に現実味のない予測になってしまうことがあります。

 とはいえ、自力で現実的な未来を予測するのは簡単ではありません。過去の変化を調べ、その流れを踏まえて未来を推定するには多くの情報整理と分析が必要だからです。

 そこで使えるのが、それをAIで実践する技法「先見倍歴」です。

 まず対象を取り巻く社会環境や技術要素を整理させ、次に過去の変化を振り返り、その延長線上で未来を予測してもらう聞き方です。

 ポイントは、過去と同じ分だけ未来が変化すると考えないことです。なぜならイノベーションは加速するから。過去10年分に起こったのと同じ変化が、これから3年や5年の間に訪れても、まったくおかしくないのです。その変化の加速度を踏まえて、未来を見通す聞き方です。

「先見倍歴」というネーミングは私のオリジナルですが、ベースになっているのは、「9ウインドウズ」という発想手法。それをよりシンプルに実践できるよう改良したのが「先見倍歴」です。

 この聞き方の優れた点は3つ。
 第一に、過去の変化を根拠にした現実的な未来予測ができること。
 第二に、社会環境と技術要素の両面から分析できること。
 第三に、複雑な分析プロセスをAIが短時間で処理してくれること。

 未来は、過去の変化をたどることで見えてきます。

 AIを使えば、その分析から未来のアイデア創出までを一気に進めることができるのです。

「優秀な若手を採用する方法」について考えてみよう

 では、この技法を実践してみましょう。
 ここでは「優秀な新卒もしくは若手社会人を採用する方法」のアイデアを例にして実践してみます。

 技法「先見倍歴」のプロンプトを使って、AIにこのように聞いてみます。

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<AIへの質問>
「先見倍歴」という未来予測の方法を定義します。
①対象(「製品」または「事業」)を取り巻く現時点の「社会環境」と「技術要素」について列挙します。
②それら(「環境要素」と「技術要素」)の過去30年の変化を洗い出します。
③その変化分と同じだけ、現在の時点から発展させたら、それら(社会環境や技術要素)はどのぐらい変わるか、を推定します。
④過去30年の変化分は、未来の15年間の変化分に相当すると仮定します。未来(15年後)に対象を取り巻く「社会環境」や「技術環境」をもとに、未来の対象(「製品」または「事業」)の姿を構想します。
この「先見倍歴」を用いて〈優秀な新卒もしくは若手社会人を採用する方法〉の15年後の姿を予測してください。

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 さて、AIはどのようなアイデアを出してくるのでしょうか。

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<AIの回答>

ご提示いただいた「先見倍歴」の手順に沿って、〈優秀な新卒・若手社会人を採用する方法〉の15年後(2041年前後)を予測します。

 

1. 現時点の「社会環境」と「技術要素」

社会環境

・少子化による若手人材不足
・学歴ブランドより「スキル」「実績」重視の傾向
・SNS・個人発信の影響力拡大
・転職の一般化(終身雇用の弱体化)
・副業・フリーランスの増加
・リモートワークの普及
・企業価値への共感(パーパス採用)

技術要素

・AIによる書類選考・適性分析
・オンライン面接
・SNS・GitHub・ポートフォリオ採用
・データドリブン人事(HRテック)
・スキル評価ツール
・採用マーケティング(タレントプール)

 

2. 過去30年の変化(1995 → 2025)

社会環境の変化

①採用チャネル

・就職情報誌 → 就活サイト/SNS・口コミ

②評価基準

・学歴・企業ブランド重視 → ポテンシャル重視/スキル・実績重視

③キャリア観

・終身雇用 → 転職一般化/キャリア自己設計

④働き方

・出社前提 → テレワーク併用

⑤企業と学生の関係

・企業が選ぶ → 学生が企業を選ぶ

 

技術要素の変化

①採用手法

・紙エントリー → 就活サイト/AI選考

②コミュニケーション

・会社説明会 → オンライン説明会/SNS接点

③評価材料

・履歴書 → Webテスト/ポートフォリオ

④情報量

・企業が情報を持つ → 学生も情報を持つ/口コミ・透明化

 

3. その変化分を未来へ延長(2025 → 2040)

過去30年の変化を15年分に圧縮して未来を推定します。

 

社会環境の進化

①採用市場

「人材争奪戦」が激化/企業が応募を待つ → 企業がスカウトし続ける

 

②評価基準

履歴書 → 行動データ

・学習履歴
・プロジェクト履歴
・AI協働能力

 

③キャリア観

就職 → プロジェクト参加

学生時代から企業と関わる。

 

④企業ブランド

会社名 → 「人が育つ環境」ブランド*

 

技術要素の進化

①AI評価

AI面接 → AI行動分析

・コード履歴
・思考ログ
・協働履歴

 

②スキル証明

学歴 → ブロックチェーン履歴

・プロジェクト参加
・学習ログ

 

③採用接点

説明会 → 常時接触

SNS
AIコミュニティ
オンライン教育

 

4. 15年後の採用の姿(2040)

ここまでを踏まえると、採用の仕組みは大きく変わります。

 

未来の採用モデル

①「就活」が消える

学生は企業のプロジェクトに参加している。

企業はその活動履歴から採用する。

大学2年 → 企業のAIプロジェクト参加

大学3年 → 小規模報酬

大学4年 → 採用決定

 

② AIが「成長ポテンシャル」を予測

AIが分析するデータ

・学習履歴
・問題解決履歴
・チーム協働履歴
・創造性ログ

つまり履歴書ではなく人生ログ

 

③ 採用は「コミュニティ化」

企業は学生コミュニティを運営

企業主催の

・AI研究コミュニティ
・起業コミュニティ
・プロジェクトコミュニティ

優秀な人はそこから自然に採用。

 

④ 採用の中心は「実践」

面接 → プロジェクト

評価項目

・問題解決力
・AI活用能力
・協働力
・学習速度

 

まとめ

15年後の採用は次の姿になる可能性が高いです。

履歴書採用 → 行動データ採用

就活 → プロジェクト参加

企業選考 → AI予測

説明会 → コミュニティ

つまり、優秀な若手を採用する方法は「採用する」ことではなく「若手が集まる場を作る」ことになる。

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 なるほど。
 2040年では、企業が学生コミュニティを運営するようになり、そこでのプロジェクトにおける行動の記録をAIやブロックチェーン技術で記録に残し、企業はそこを評価して採用を判断するようになると。

 現状の就活早期化や、企業が大学1年生時から学生を青田買いしている状況を見ると、まったく絵空事には思えない未来ですね。

 現代におけるインターンにも近いですが、若年層人口の減少によって売り手市場がさらに加速した未来では、「学生が参加したいと思えるような魅力的なプロジェクトを提示できるかどうか」がより重視されてきそうです。

 学生が企業を選ぶポイントが、福利厚生や給与といった点ではなく、「人が育つ環境かどうか」になるという指摘も、昨今「ゆるブラック(一見働きやすいが、業務が単調でスキルアップや成長が見込めないブラック企業のこと)」といったキーワードが話題になっていることから見ても、かなり妥当な未来予測だと思います。

 そして最後には、「優秀な若手を採用する方法は“若手が集まる場を作る”ことになる」とまとめてくれています。では、そのために今から何をすればいいのか。アイデアが溢れてきますね。

 長期的なアイデアや戦略を考えたいとき、ぜひ一度技法「先見倍歴」を活用してみてください。

(本稿は、書籍『AIを使って考えるための全技術』掲載の技法をもとに作成したオリジナル記事です。他にも書籍では、AIを使って思考の質を高める56の方法を紹介しています)