「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。戦略とは何か。変化の時代に、企業は何を問い直すべきなのか。本連載では、さまざまな経営や組織の悩みについて坂田氏に話を聞きながら、同書の考え方を現在進行形の課題へと結びつけていく。
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内定辞退率の裏で進む「意思決定の外注」
――最近、企業が内定者の親に承諾を求める「オヤカク」という動きが広がっています。こうした現象をどうご覧になりますか。
極めて危うい構造だと感じています。実際、ある調査では、保護者のおよそ半数が企業からいわゆる「オヤカク」を受けた経験があると回答しています。
また、子どもの内定企業から内定式や入社式への案内を受けた保護者のうち、約4割が「参加した、または参加予定」と答えています。こうした数字が示しているのは、就職の意思決定の場に親が深く関与しているという現実です。言い換えれば、企業が「学生個人」と向き合うのではなく、親という外部の第三者を合意形成の相手として巻き込んでいる状況とも言えるでしょう。
――この「オヤカク」という構造の問題は、どこにあるのでしょうか?
学生側の意思決定の姿勢に影響を及ぼしてしまう点です。例えば、「どこに就職したらいいか?」「この就職先で本当に良いのか?」と親に判断を仰ぐ習慣が当たり前になると、その思考パターンはビジネス現場での致命的な弱点につながります。
常にAIや上司に「答えは何ですか?」と尋ねてしまう思考特性は、就活時の「意思決定の外注」と完全に地続きです。
ビジネスの現場では、顧客からの問いに対して、その場で仮説を立て、自分の意見として提示しなければならない場面が少なくありません。そのとき、自分の判断を持てず、常に誰かが出す正解を待つだけの姿勢では付加価値を生み出すことが難しくなります。
AIが台頭する時代に価値を持つのは、「正解を探す人」ではなく、状況を読み取り、何を解くべき問題なのかを定義できる人です。親や企業に判断を委ねる習慣は、この「問いを立てる力」を弱めてしまいます。
日本を縛る「経路依存性」という構造
――なぜ、これほどまでに「自分で決められない」構造が強まってしまったのでしょうか?
背景には、日本の教育や採用システムに根深く残る「経路依存性」があります。
経路依存性とは、過去に成功した制度やルールが、環境が大きく変化した後も慣習として残り続ける現象を指します。
かつての高度経済成長期には、社会のゴールが比較的明確でした。決められた正解へいかに早く、正確に到達するかが重要であり、教育や採用の仕組みもその前提で最適化されていました。
しかし現在は、ゴールそのものが固定されていない不確実な時代です。本来であれば、自ら問いを立て、道を探る力が求められる局面にあります。
それにもかかわらず、企業は「安定」という過去の価値観を親世代に向けて説明し続けています。
一方で学生の側でも、就職活動を自分の意思決定として捉える感覚が弱まりつつあります。その象徴が「面接官ガチャ」という言葉でしょう。こうした状況の中で、主体的に意思決定する経験が育ちにくい構造が生まれています。
米国が常にゴールを示してくれる時代も終わりました。
私たちは今、自ら道を作る能力を試されています。時代錯誤なシステムにより、AI時代に通用しない「自律できない人材」を量産しているこの構造を、私たちは問い直さなければなりません。
企業は「戦略」を、学生は「決める練習」を
――こうした停滞を打破するために、企業はどのように変わるべきでしょうか?
まず企業が取り組むべきは「親を説得する資料作り」ではなく、自社で働くことの意義を言語化できる「戦略のデザイン」です。
何をするために、どんなケイパビリティ(組織能力)が必要なのかを定義し、世界中から多様な人材を選ぶ手法を見出すべきです。採用枠だけにこだわらず、スタートアップや他企業とのコラボレーションを前提とした、よりオープンで自律的な組織設計が求められます。
――では、学生側はどうでしょうか。
学生側は、徹底して「自分で決める練習」を重ねるべきです。
人生の目的といった壮大なテーマでなくて構いません。どの授業を選ぶのか、どのコミュニティに参加するのか。そうした小さな意思決定を自分の責任で行い、失敗を含め、その結果を引き受ける経験を積み重ねるのです。
その経験の蓄積こそが、AIには代替できない「実体験に基づく論理的な意見」を形作っていきます。
AI時代に淘汰されるのは、決して能力の低い人ではありません。「自分で決めない人」です。
状況に応じ、その場で最適解をデザインしていく。その第一歩は、親への確認ではなく、自分自身への問いから始まるのです。
なお、こうした「自律的な意思決定」を組織としてどう設計していくのかについては、拙著『戦略のデザイン』のレッスン10でも具体的な事例を交えて解説しています。
――ありがとうございました。
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。




