「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。戦略とは何か。変化の時代に、企業は何を問い直すべきなのか。本連載では、さまざまな経営・組織の悩みをもとに、坂田氏に話を聞きながら、同書の思想を現在進行形の課題へと引き寄せていく

なぜ頭の良い人はユーザの期待に応えようとしないのか? その驚きの理由Photo: Adobe Stock

ユーザの声を信じすぎる組織の落とし穴

――ユーザの声をもとに企画した商品を市場に出したのに、思ったほど売れない。そんな経験をした企業は少なくありません。なぜこうしたことが起きるのでしょうか?

「ユーザの声を聞きなさい」というのは、ビジネスの世界では半ば常識のように語られています。

 顧客に選ばれなければ商品は売れませんし、顧客志向が重要であることは今さら説明するまでもありません。ただし、優秀な人ほど、ユーザの言葉にそのまま飛びつくことはしません。いったん立ち止まり、こう考えます。

「本当に解決すべき問題は何だろうか?」

 ユーザの声を聞くこと自体が問題なのではありません。問題は、その言葉をそのまま解決策にしてしまうことです。

――何か具体的な例はありますか?

 以前、あるアパレル企業の経営改善プロジェクトに関わったとき、営業担当者からこんな相談を受けました。

「商品Aの在庫が足りなくて、売りたくても売れません。もっと作ってください」

 現場に最も近い営業がそう言うのですから、一見もっともらしく聞こえます。実際、「それなら生産を増やすべきだ」と考える人も多いでしょう。

 ところが別の店舗に行くと、今度はまったく違うことを言われました。

「足りないのはAではありません。商品Bです」

 さらに別の店舗ではこう言われました。

「Aですか? それはむしろ余っています」

 ある店では足りないと言われ、別の店では余っていると言われる。現場の声をそのまま並べてみると、全体としてつじつまが合わないのです。

――ユーザの声をそのまま信じることは、危険だということでしょうか?

 現場の声が間違っているわけではありません。それぞれの店舗では、それぞれの事実が起きています。ただし、その事実がそのまま会社全体の状況を表しているとは限りません。

 このアパレル会社のケースでは、会社全体の状況を調べてみると、驚くべきことがわかりました。

 この会社には、リアルタイムの在庫データが存在していなかったのです。つまり、どの店舗に、どの商品が、どれだけあるのか。この基本的な情報を、会社として正確に把握できていませんでした。

 この状態で営業の言う通りに生産を増やしたらどうなるでしょうか。特定の店舗では一時的に不足が解消されるかもしれません。しかし、会社全体で見れば在庫がさらに積み上がるだけで、問題の本質は何も解決されません。

優秀な人は「木ではなく森」を見る

――では、どう対処したのでしょうか?

 やったことはとてもシンプルでした。店舗間で在庫情報を共有する仕組みを作ったのです。

 最初はExcelで、日次ベースで各店舗の在庫を共有する仕組みを作りました。すると欠品は大きく減りました。その後、この会社は正式に在庫管理システムへの投資を決めることになります。

 つまり、この問題の本質は「在庫が足りないこと」ではなく、「在庫が見えていないこと」だったのです。

――それでも現場の声を無視するわけにはいきませんよね。

 もちろんです。現場の声は、多くの場合、実際に起きている出来事を反映しています。

 現場では常に何かが起きています。商品が足りない。お客さんが怒っている。システムが使いにくい。こうした出来事はすべて事実です。ただし現場の視点はどうしても部分的になりがちで、それだけで経営として解くべき問題が見えるとは限りません。

 店舗の担当者は、自分の店舗の状況を中心に見ています。ですから、どうしても目の前で起きている問題を基準に考えることになります。その結果、「この商品が足りない」「この商品が売れない」という声が上がるわけです。

 しかし経営の視点で考えると、見るべきものは違います。

 必要なのは全体の構造を見ることです。つまり「木ではなく森を見る」ということです。個々の声に引きずられると、対処はどんどんその場しのぎになります。本当に変えるべきなのは、その声を生み出している仕組みであることが少なくありません。

本当に優秀な人は「声の背後」を見る

――では、ユーザの声はどう扱えばよいのでしょうか?

 ユーザの声は非常に重要です。むしろ、多くの場合それが問題解決の出発点になります。

 ただし、その言葉自体が答えなのではなく、あくまで「問題の手がかり」だと考えるべきです。

 例えば今回のケースでも、営業担当者は「在庫が足りません」と言いました。しかし実際に解くべきだったのは、「在庫情報が見えていない」という構造的な問題でした。

 多くの場合、ユーザが口にするのは「問題」そのものではありません。それは、問題の表れ方、つまり「症状」です。本当に向き合うべきなのは、その症状を生み出している「原因」です。

 症状に対処すれば、一時的には落ち着くかもしれません。しかし、原因が残っていれば、同じ問題はまた起きます。逆に、原因に手を打てば、問題は繰り返されなくなります。

――では、本当の問題はどのように見つければいいのでしょうか?

 私が問題解決をするとき、誰かが何かを言ったからといって、すぐに動くことはありません。必ず一度、自分に問いかけます。

この声の背後には、どんな構造があるのだろうか

 例えば、「在庫が足りない」という声の裏には、情報共有の問題があるかもしれません。システムの問題かもしれませんし、組織の役割分担の問題かもしれません。

 表に出てきた言葉だけを追うと、対処はどんどん場当たり的になります。しかし、その言葉を生み出している構造まで見に行くと、打つべき手はまったく変わります。

 誰かの声を聞いたとき、すぐに動く前に一度立ち止まってみてください。

 視座を上げ、その声の背後にある構造に目を向ける習慣を持てば、本質的な問題解決ができるようになります。

――ありがとうございました。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。