私がスタンフォードに入った1979年はちょうどアメリカの企業が変質する分岐点だった。1950~1970年代は企業のトップが「どんな企業であるべきか」という理念に基づくゆとりのある経営を行うことができていた。

 当時の経営トップであるCEOたちは、企業理念をきちんと作り出し、組織に説明できる人が主流だった。ビジネススクールやMBA出身の数量化のプロたちは、トップにはつかず財務や経理といったポジションの「参謀」として仕えていた。重要な意思決定の際には、経営者の価値観が強く反映されていたわけだ。

 しかし、1980年代半ばに入るとビジネススクール出身者がCEOを務めるようになり、数量化を取り入れることで企業の目的と手段が入れ替わるような経営が見られるようになる。

 彼らは、研究開発費を削り、10年先の技術をつくる研究所も処分すべきだと主張する。モノをつくるメーカーが研究にかける経費を削り、研究所をなくしたら未来はないにもかかわらず。

 それでも彼らは「株価」という名の企業価値を最大化して株主に還元し、自らが多額の報酬を受け取ることを目指したのだ。

本業の利益を大きくせず
手っ取り早く企業価値を上げる

 私もスタンフォードでROE(自己資本利益率)を上げ、時価総額の最大化を図るためのさまざまな手段を教わった。

 手っ取り早くROEを上げるためには、従業員ごと工場を売却して外注化したり、資産を圧縮したり、人件費を減らすために正社員をリストラしていつでも切れる派遣社員に切り替えたりするのが効果的だ。

『THE BEST WORK「最高の仕事」を生きる』書影THE BEST WORK「最高の仕事」を生きる』(原 丈人、サンマーク出版)

 本業の利益を大きくするのではなく、資産から負債を除いた株主資本を小さくするほうが、手っ取り早く数字上の企業価値は上がっていく。

 こうしたビジネススクールで学ぶテクニックは、あくまでも経営上の「道具」に過ぎない。ところが、ビジネススクール出身の経営陣は、短期的な儲けを追いかける小手先のテクニックばかりを重視する傾向がある。

 なぜなら、彼らが注目しているのは企業の中長期の成長でも、同業他社も含めたマーケットそのものの成長でもなく、短期的に株価を上げることによってもたらされる「自分たちの報酬」だからだ。

 株価連動報酬などの仕組みにより、株価が上がれば経営陣の報酬も増える。すなわち、株主と経営陣の利益が合致する経営メカニズムが組み込まれてきたのである。