ニオイの感受性には遺伝子多型が深くかかわっていることが広く知られている。

 最も有名な例として、パクチー(コリアンダー)が挙げられる。パクチーを「爽やかなハーブ」として好んで食べるパクチストがいる一方で、「カメムシやせっけんの悪臭」と感じて絶対に食べられない人がいる。

 これは、嗅覚(きゅうかく)受容体「OR6A2」を含む遺伝子群近傍の多型が関与し、単にニオイを強く感じるか否かを超えて、そのニオイ成分をどう知覚するかに差が出るためと考えられている(※1)。

 同じ草を前にして、一方はハーブを、もう一方はカメムシを知覚しているのだ。

 豚まんのニオイについても、この「嗅覚の多様性」の延長線上で解釈できるのではないか。この仮説を裏づける知見を探る中で、ひとつの興味深い医学論文(※2)に行き当たった。

「苦手派」が豚まんのニオイを嗅ぐと
「危険アラート」が誤作動する

 豚肉の脂肪分には「アンドロステノン」というステロイド系の揮発性成分が含まれうることが知られており、これはいわゆる「獣臭」の要因のひとつとなる。

 興味深いことに、この論文によれば、ヒトがこの成分をどう知覚するかは、「OR7D4」という嗅覚受容体遺伝子の型と強く関連している可能性があるというのだ。

 この受容体が野生型(RT型)である群は、アンドロステノンに対して高い感受性を示し、不快な獣臭として感知しやすい傾向があるようだ。

 もしこの獣臭が、太古の昔に外敵の存在を示す「危険アラート」として作用していたと仮定すれば、情動系や自律神経系がざわつくのも不思議ではない。

 私を含めた、アンドロステノンを獣臭として感じてしまう苦手派にとって、豚まんのニオイは「情動系をざわつかせる不快刺激」となる可能性がある。

 時に、苦手派の語気に怒りがこもり、反応が過剰に見えるのは、それが彼らの防御反応であるからなのかもしれない。

 苦手派が怒るのは、豚まんのニオイが強いからではなく、そのニオイが脳内で「危険アラート」として処理されている可能性があるからだ。

 一方で、この受容体遺伝子に変異(WM型)を持つ群は、アンドロステノンに対して不快さを感じにくく、むしろより好意的に知覚する傾向が報告されている(※3)。

 霊長類の進化の過程において、人間は視覚を発達させる一方で、嗅覚への依存度を下げた。嗅覚受容体の遺伝子は変異(偽遺伝子化)を蓄積しやすいこともよく知られている。