そのポイントは、秀一さんが生前から行っていた不動産の持ち方と、それを前提に設計された遺言書の内容にありました。
(1)小規模宅地等の特例――自宅の評価が80%減に
秀一さんが所有していた自宅の敷地は330平方メートル以内に収まっていました。この場合、「小規模宅地等の特例」が適用でき、居住用宅地の評価額を最大80%減額できます。引き続き暮らす母が自宅を相続することで、この特例を最大限に活用できました。
評価額は約5000万円の土地でしたが、特例適用後は1000万円の評価に圧縮されたのです。
(2)駐車場用地に大幅な評価減
秀一さんが保有していた四つの駐車場用地は、それぞれ三大都市圏外に位置する1000平方メートル超の土地でした。こうした土地には「地積規模の大きな宅地の評価」が適用でき、評価額を大幅に引き下げることができます。
路線価ベースでは四つ合計で8000万円と評価されていた土地が、補正後は合計6000万円にまで圧縮されました。評価減の効果は約2000万円です。
(3)配偶者の税額軽減――最後の「切り札」
基礎控除と各種評価減を積み上げた結果、課税価格は大きく圧縮されました。そこに「配偶者の税額軽減」を適用したことで、家族全体の納税額をさらに抑えることができました。
この制度は、配偶者が相続した財産が法定相続分(今回は2分の1)か1億6000万円のいずれか大きい額以下であれば、配偶者に相続税がかからないという強力な制度です。
遺言書の内容に従い、母が自宅・預貯金を中心とした財産を相続したことで、配偶者の取得額が軽減の範囲内に収まり、母の納税額はゼロ。三村さんと妹も、圧縮後の課税価格に対してそれぞれ相続税を計算した結果、家族全体として相続税を大きく抑えることができました。
遺言書が「完璧な相続」を
可能にした
三村さんが後から気づいたのは、父・秀一さんが遺言書を残していたことの意味の大きさでした。遺言書がなければ、相続人3人で遺産分割協議を行う必要があり、意見が分かれれば時間がかかります。
配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は、原則として申告期限内に遺産分割が完了していることが適用要件となるため、分割の遅れは税務上の不利益につながる可能性があります。
秀一さんは遺言書の中で、自宅の土地と建物、預貯金は母へ、駐車場用地と賃貸アパートは三村さんと妹へ、などと分割内容を明確に示していました。この分割設計が、控除や特例を最大限に活かせたのです。
「父がすべて考えていてくれたんだと思うと、胸が熱くなりました」と三村さんは話します。







