控除や特例は相続税に有利だが
見落としてはならない落とし穴がある
今回のケースは相続税節税の成功事例ですが、二次相続を見据えると注意点もあります。そこで、相続税申告に精通する「いちよう相続・税務サポート」の田澤広貴税理士に聞きました。
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――高額の遺産があっても、今回のような相続税を大幅に減らせるケースは多いのでしょうか。
田澤税理士:相続税を大きく減らせる控除や特例はいくつかあります。今回のように相続財産が2億円規模であっても、配偶者がその多くを取得することで相続税を大きく圧縮できるケースは珍しくありません。小規模宅地等の特例などと組み合わせれば、さらに効果は高まります。
ただし、配偶者の税額軽減は二次相続(母が亡くなったときの相続)で子の負担が上がりやすいというリスクを抱えています。
二次相続では、
(1)配偶者の税額軽減が使えない
(2)相続人が減り基礎控除が縮小する
(3)一次相続で引き継いだ財産に配偶者の財産が加わり、財産額が大きくなる。
という不利が重なるからです。
今回は秀一さんの遺言書による分割設計が絶妙で、母の取得財産が必要以上に膨らまないよう配慮されていました。駐車場用地や賃貸アパートといった収益不動産は三村さん・妹さんが相続することで、母の財産がこれ以上増えにくい構造になっています。おそらく生前から専門家に相談しながら準備を進めていたのでしょう。
また、一般的に、節税を優先して収益不動産を子が相続すると、配偶者は「これまでの家賃収入がなくなり生活が不安定になるのでは」と不安を感じがちです。
しかし本件では、三村さんに収益不動産を承継させる一方で、母には十分な預貯金と自宅を確保させています。これにより、母は生活資金を確保し安心して暮らすことができると同時に、財産の過度な増加を抑え、二次相続における税負担の上昇も抑制しやすい構造となっています。
家族それぞれの生活や心情、将来の税負担まで見据えた、非常にバランスの取れた設計といえるでしょう。もっとも、配偶者が亡くなる二次相続の際には、家族をリードしてきた秀一さんはいません。だからこそ、今のうちから母と子で「これからの生活と資産」について話し合い、方向性を共有しておくことが重要です。
例えば、母が相続した現金について無理のない範囲で生前贈与を行うことや、生命保険の非課税枠(500万円×法定相続人数)を活用することなど、二次相続を見据えた対策も検討できます。
母のこれからの生活を最優先に守りながら、次の世代へどのように資産を承継していくか。親子で将来の設計図を共有しておくことが、秀一さんの思いを活かす最善の対策といえるでしょう。







