企業の生成AI利用は急速に拡大しているが、成果に乏しいと嘆く声も多い。
確かに資料の作成やリサーチのアウトプットは早くなり、生産性が向上したように見える。しかし、思ったほど仕事が早く終わるわけではないし、正確性に欠けるから、結局は確認しなければならないので手間がかかることには変わりがない。
作業を自動化してくれるAIエージェントについても同様だ。自律的に判断し、人間に代わって業務を遂行する、いわば「従業員AI」だ。
しかしAIエージェントも活用に大きな壁が立ちはだかる。性能は高度であっても、人間の指示がないと動けないのだ。人間と同じく育成や教育に時間がかかる点も活用をより困難にさせる。
思ったよりも使えない──AIへの期待値が高かった分、落胆も大きい。
しかしこうした期待と実感とのギャップは、人間がAIの真価を見極められず、使いこなしきれていないからこそ起きる現象ではないだろうか。
そんなギャップを埋めるために、AIはさらに進化している。先進的な企業は、生成AIや、AIエージェントからさらに発展した「エージェント型AI」の活用へと視野を広げているのだ。
エージェント型AIは人間の介入が最小限にとどまり、事業や業務の計画から実行までを一気通貫に行う。エージェント型AIの指示に従い、個別のAIエージェントが連携して業務を遂行する、いわば、マネジメントするAI、AIのプロジェクトマネジャーと言ってもいい。
生成AIやAIエージェントすら使いこなせないのに、エージェント型AIなど導入できるわけがない──そんな考えに一石を投じるのが、AIと自動化に関する専門家で、書籍『エージェント型AI』の著者、パスカル・ボーネット氏だ。ボーネット氏は、経営者がエージェント型AIの本質を理解することで、企業のAI活用は大きな成果を得られると力説する。
ボーネット氏は2026年1月に来日し、エージェント型AIに関する講演を行った。本連載では、ボーネット氏が提示したエージェント型AIがもたらすビジネス変革のあり方と課題について詳報する。
エージェント型AIで何ができるのか
エージェント型AI、これは15年以上にわたって追求してきた、私にとってライフワークといえるものです。
私はもともと、インテリジェント・オートメーション、つまりロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)のワークフローやスクリプトに取り組んできました。企業のエンドツーエンドのビジネスプロセスを自動化するものです。
そして2023年、私たちの世界を変え、今後もさらに変えていくものが登場しました。大規模言語モデル(LLM)、つまり生成AIです。その能力は皆さんもご存じだと思いますが、質問に答えたり、レコメンデーションやインサイトを提供したりするものです。
一方、エージェント型AIができることはなにか。まず、私たちが「エージェント」、AIエージェントと呼ぶものの頭脳となる。エージェントが私たちの望むこと──つまり私たちが与えるゴール──を理解する。そのゴールを達成するために実行すべきアクションを計画する。アクションを遂行するためのツールを使う。そして、自らの行動を振り返り、期待されたアウトカムを達成できたかどうかを省察する。この一連のプロセスの手助けをしてくれるのがエージェント型AIです。
そうすることで、その次はどうすれば仕事のやり方を改善できるかを考え、学習のサイクルが回るのです。つまり、常に自分自身を改善し続ける。これが、私たちの世界をゆっくりと変えつつある新しい能力です。私は、今回は企業からこの変化が始まると思っています。企業の中でエージェント型AIがますます活用されるようになるでしょう。
「エージェント型AIとは何か」を説明できるか
ここで極めて重要なのは、エージェント型AIとは何か、ということをどうやって周囲の人にシンプルに説明できるかです。企業にこうした技術を導入する際に、それが何であるかを説明できるようにする。次に、そのメリットについてお話しします。この技術を企業に導入することで何ができるのか、どんなメリットが得られるのか。そして、導入を成功させるためのポイントについてお話しします。
世界の企業のうち、エージェント型AIで事業をスケールさせることに成功したのはわずか10〜15%にすぎません。つまり、簡単ではないのです。しかし、ポテンシャルは非常に大きい。成功が難しいからといってエージェント型AIへの取り組みを遅らせるのは、企業にとって大きなリスクになります。その理由は後ほど説明します。得られるメリットがあまりに大きいため、企業は立ち止まることも待つこともできないのです。
では、エージェント型AIを簡潔に定義しましょう。私が好んで使う説明方法をお伝えします。取締役会やマネジメントチーム、あるいは自分のチームに、エージェント型AIがどんなもので、どう使えるかを説明するためのヒントになるかもしれません。
皆さんの多くは、すでに生成AIを試されたことがあると思います。生成AIで旅行計画を立てよう。たとえばロンドンに5日間。何をしたいかは正確には分からないけれど、家族と行って喜ばせたい。最高のレストラン、最高のホテル、最高の場所、美術館などに連れて行きたい。でも全部は知らない。そこでチャットGPTやクロード、Geminiなどに聞く。
すると生成AIは、1日目、2日目、3日目、5日目に何をすべきか、素晴らしいリストを作ってくれます。時間ごとにどこに行けばいいか、何がベストの旅行になるのかが分かります。
とてもワクワクしますよね。家族も大興奮です。でもその後、生成AIに「OK、素晴らしい。これをやりたい。では予約してくれますか?」と聞いたらどうなるか。みなさんも経験があると思いますが、非常にがっかりすることになります。返ってくるのは「私はLLM(大規模言語モデル)です。アクションを実行することはできません。何もできません」という回答だけです。
つまり、こういう状態になるのです——生成AIに素晴らしい夢を見させてもらったのに、実際の予約作業は自分の手とキーボードで行わなければならない。考えてみてください。私たちがテクノロジーにずっと望んできたことは、テクノロジーが夢を見て計画を立てる一方で、私たち人間が面倒で退屈な作業をすることではありません。テクノロジーに退屈な作業をやってもらい、私たちは人生を楽しみ、素晴らしいことができるようになること─それをずっと望んでいたはずです。
エージェント型AIが登場し、この問題を解決してくれます。生成AIがインサイトを提供するのに対し、エージェント型AIはインサイトだけでなく、アクションの実行まで提供します。旅行予約の例でいえば、エージェント型AI搭載のチャットGPTに「家族で5日間のロンドン旅行を予約して。こういうことがしたい、予算は5,000ドル、制約条件はこれこれ」と伝えます。するとプランを作ってくれて、私が「OK、予約して」と言えば、私が寝ている間にすべての予約を完了してくれます。
そして企業活動においても、まったく同じことができるようになるのです。
パスカル・ボーネットAIと自動化に関する受賞歴のある専門家、著者、基調講演者。複数の賞を受賞し、世界のAI、自動化の専門家トップ10 に定期的にランクイン。また、200 万人以上のソーシャルメディアのフォロワーを持つインフルエンサーでもある。マッキンゼー、EYで20 年以上にわたり上級管理職を務め、両社で「インテリジェント・オートメーション」部門を設立・主導。この間、世界中の数百の組織に対してAI と自動化の試作を実施し、業界全体の変革を推進した。
企業は「行動するAI」を使うべし
生成AIを使って「マーケティング戦略やキャンペーンを作りたい。手伝ってくれますか?」と尋ねてみましょう。素晴らしいキャンペーン、インサイト、レコメンデーションを出してくれますが、実装は自分でやらなければなりません。手を動かし、パソコンを使って実装する。つまり、大変な作業は自分でやるのです。
銀行の不正検知も同じです。生成AIは不正を特定し、パターンを見つけてくれます。しかし、その不正を是正し、問題を解決するのはあなたに委ねられます。
生成AIで見られるこうした問題は、エージェント型AIが解決します。ここで重要なポイントがあります。ビジネスインパクトを生むにはつまり、より高い収益やより良い利益を得るには、行動することが唯一の方法です。そして今日、行動できるのはエージェント型AIだけです。
企業にインパクトを与えたいなら、生成AIを使うかエージェント型AIを使うかという問いはありません。エージェント型AIを使ってください。エージェント型AIは、ゴールを達成するために自律的に実行します。
エージェント型AIを理解するための「SPARフレームワーク」
エージェント型AIに「これをやってください」と頼むと、どんなことをやってくれるのか。ゴールを設定してからアウトカムを受け取るまでの間に何が起きているかを説明するために、「SPARフレームワーク」というものを紹介します。
SPARのSは「認識(Sense)」です。エージェント型AIが最初に行うステップは、環境を認識することです。データを認識し、実行を開始するトリガーを認識します。
Pは「計画(Plan)」です。エージェントは達成すべきことを理解すると、ステップ1、ステップ2、ステップ3、ステップ5というアクションプランを作成します。料理のレシピと同じですね。
これらのステップを設計したら、ツールを使って実行します。Aは「行動(Act)」です。ツールとは何か? それはメールの送信、カレンダーの招待作成、SAPのようなERPの利用やデータ入力のことです。そして最後に、非常に重要なのがRの「振り返り(Reflect)」です。エージェントは達成できたアウトカムについて振り返ります。
達成できたアウトカムが、当初与えられたゴールと一致していれば成功です。次回も同じやり方をします。しかし、期待されたゴールに到達していない場合、エージェントは振り返り、「今回はゴールに到達するために、何を違うやり方でできるか」と考えます。これが学習のサイクルループです。
この能力は、エージェント型AIの世界で成長し続けます。自ら学習し、自らを修正する再帰的知能システムによって、より良い成果を出し続けるのです。不断の改善を繰り返す、これがエージェント型AIの大きな特徴です。
エージェント型AIはツールではない
先ほどお伝えしたSPARフレームワークの例ですが、私たち人間もまったく同じことをしています。パスタを作ることを考えてみてください。
まずキッチンに立って周りを見回し、「どんな食材があるかな?」と確認します。これが「認識(Sense)」です。環境を認識するのです。「パスタがある、塩がある、トマトがある」。次に計画を立てます。「最初に何をすべきか?」つまりパスタのレシピです。そして実行します。お湯を沸かし、パスタを入れます。これがSPARフレームワークのAです。
最後に、パスタを味見して「十分おいしいか? 塩辛すぎないか? 次回はもっと塩を減らそう。歯ごたえがありすぎないか? 次回はもっと長く茹でよう」と考えます。こうして学びを繰り返します。これがまさに同じ方法です。ここでお見せしているのは、SPARフレームワークは私たち人間がゴールを達成するのとまったく同じ方法だということです。
ここで重要なポイントに辿り着きます。エージェント型AIはもはやツールではありません。私たちのチームメイト、チームメンバーなのです。私たち人間との大きな違いは、エージェントは眠ることがなく、病気にならず、休暇を取ることもなく、高速で仕事をするということです。(第2回に続く)
◉構成・まとめ|滝川洋平
◉撮影|久世和彦

![[検証]戦後80年勝てない戦争をなぜ止められなかったのか](https://dol.ismcdn.jp/mwimgs/9/8/360wm/img_98a65d982c6b882eacb0b42f29fe9b5a304126.jpg)





