「いいデザイン」に必要な三つの要件
なぜ今、この基準が必要なのか
――受賞者として感じた価値は審査の方向性にどう反映されますか。
中川 審査委員長に就任した際にもコメントしましたが、そもそもいいデザインとは何か。僕なりに整理すると、三つの要件があると考えています。
一つ目は、本能的に美しいと感じられるかどうかです。人が直感的に引かれる造形やたたずまい、使い心地。それは単なる装飾ではなく、機能や合理性を含んだ美しさである必要があります。二つ目は、社会性があるかどうか。環境への配慮にとどまらず、人権や労働、物流、産業構造など、そのデザインが社会とどのように関わっているのか。デザインは常に社会の一部であり、社会への態度を内包しています。
三つ目が、先ほどお話しした内容につながりますが、ビジョンに資するものであるかどうかです。デザインは、企業や組織の存在意義と具体的な事業活動をつなぐ力として機能します。ビジョン・世界観・プロダクトを整合性のある形で結び付け、ユーザーに対して深い理解を促すコミュニケーションでもあります。この点はこれまでのデザインに対する評価において、十分に共有されてこなかったのではないかという思いがあり、審査の方向性を考える上での課題として意識しています。
――三つの要件がそろっていることが重要ということですね。
中川 ビジョンが異なれば、あるべき「良い形」も変わってきます。目指す方向や実現したい価値が違えば、それに応じて最適なデザインの在り方も当然異なるはずです。だからこそ、個別のアウトプットだけを切り取って評価するのではなく、「本能的な美しさ」「社会性」、そして「ビジョンとの接続」という要件がそろっていることはもちろん、この三つが整合して初めて、本当に「いいデザイン」と言えると思っています。
――「いいデザイン」の議論において、グッドデザイン賞は「コトのデザイン」に評価が偏っているのではないかという意見も聞かれます。
中川 最近の審査については、あくまで外から見た印象という前提になりますが、その背景には、ビジョンとの近さがあるのではないかと思います。「コトのデザイン」はビジョンがなければ成立しにくく、その思想と実践が一体となって表現されやすい。一方で、「モノのデザイン」とされるものは、既にその製品分野が社会的に不可欠なものとして認識されているものが多く、ビジョンを明確にしなくても成立してしまう場合があります。そのため、評価のされ方において差が生まれているのではないでしょうか。
「モノ・コト」の区分けだけではなく、あらゆる分野のデザインを同じ土俵で並べて評価することには、もちろん難しさがあると思います。ただ、「心を動かす何か」というのは、コトに限ったものではないはずです。モノのデザインも、ビジョンとの距離を近く感じられるようにプレゼンテーションされれば、評価や見え方も変わってくるのではないかと思います。








