「デザインの専門家ではない」からこそ見えたデザイン賞の価値――経営者が問い直すデザインの本質

1957年の創設から70年近くを経て、グッドデザイン賞が新たな転換点を迎えている。かつて「Gマーク」は生活者に「良いもの」を示す確かな指針だったが、若い世代にその存在感は薄れ、デザイン業界の内側では「モノより、コトのデザインばかりが評価される」という声も上がる。そんな時代に、審査委員長として異例の就任を果たしたのが、中川政七商店前会長の中川淳氏だ。「デザインの専門家ではない」と言う経営者は、この賞に何を見、何を変えようとしているのか。(聞き手/音なぎ省一郎、撮影/まくらあさみ)

「Gマークって何?」
若い世代に届かなくなった賞の現在地

――グッドデザイン賞の審査委員長としては、事実上初の経営者となります。どのような役割を意識されていますか。

中川 僕はデザインの専門家ではないので、審査の一つ一つに細かく関わるというよりは、全体の方向性を示す役割だと考えています。

 ただ、審査に関わることはもちろん重要ですが、それ以上に、グッドデザイン賞やデザイン界が抱えている課題に対して、何ができるのかを考えていきたい。

 その課題とは大きく二つあって、一つはグッドデザイン賞そのものの価値を高めること。もう一つは、経営とデザインの相互理解を深めることです。

――グッドデザイン賞の価値については、どのような課題意識がありますか。

中川 グッドデザイン賞は70年の歴史があって、その間に社会や時代の変化とともに、位置付けや対象も変わりながら進化してきました。その中で、デザイン業界内での価値は今でも高いと思います。

 一方で、生活者という立場から見るとどうでしょうか。私は賞の存在感が薄くなっているのではないかと感じています。例えば上の世代の人たちは、Gマークが付いていると安心感があると感じていることが多い。でも若い世代になると、「Gマークって何?」という感覚になっている部分もある。そこは変えていくべきだと思っています。

――生活者に価値を伝えていくために、どんな打ち手が考えられますか。

中川 ここ10年、20年ずっとそうだと思うのですが、モノがあふれている中で、何かを選ぶという行為自体がどんどん難しくなってきています。

 本来であれば、グッドデザイン賞にはこれだけの歴史と蓄積があるので、「取りあえずGマークを見る」という選び方があっておかしくない。ただ実際にはそうなっていません。

 その理由の一つは、情報の届け方にあると思っています。例えばGマークのサイトは受賞企業やデザイナーのためのアーカイブとしては機能していますが、「かっこいいテレビ台が欲しい」と思って探す生活者には使いにくいものとなっています。蓄積はあるのに、選択の入り口になれていないのです。

 Gマークを単なる評価の証明ではなく、選択を支える指針としてどう提供していくか。そこには、まだ大きな可能性があると思っています。