経営者が実感できるデザインの定義
「狭義・広義」の区別より大切なこと

――こうした議論の背景には、「デザイン」という言葉の拡張があるように思います。

中川 「狭義・広義」といった区分けで語られることも多いですが、この区分けは特に経営側にとって非常に分かりにくく、ともするとデザインに対して「なんか嫌だな」という感覚を生んでしまっているのではないかと感じています。

 僕自身は経営者という立場で、デザイナーと長く協働してきた経験から、双方の感覚をある程度理解しているつもりです。しかし、言葉の意味が広がるにつれて、デザインがあらゆる課題を解決できるかのような「万能感」を帯びてしまっているように思います。これにはデザイン側の課題もあるのではないかと考えています。

 だからこそ、狭義・広義といった分け方はやめた方がいいのではないでしょうか。「デザインとは何か」を、お互いが理解できる言葉で捉え直すことで、ビジネスとデザインの双方が、同じ前提で対話できるようになるはずです。

「デザインの専門家ではない」からこそ見えたデザイン賞の価値――経営者が問い直すデザインの本質

――それはビジネスとデザインにおける長年の課題です。

中川 グッドデザイン賞の審査委員長になったタイミングで、「デザインとは何か」をあらためて考えてみました。そこでたどり着いたのが、「過不足なく構成要素を洗い出し、選択肢を創造・決定し、調和の取れた形に落とし込むこと」というものです。これは、経営とデザインの双方が理解できる共通言語としての定義であって、線を引いたり、上下に並べたりすることを意図したものではありません。

 少し説明しましょう。プロダクトデザイナーの深澤直人氏がワークショップなどで取り上げる「傘」の例があります。多くの人は、傘の役割を「雨を避けること」と捉えがちですが、実際にはぬれた傘を帰宅後にどこへ置くかという状況も存在します。こうした本来考慮すべき構成要素を過不足なく捉えること。それが出発点です。

 次に、選択肢を創造し、そこから何を選び取るかというプロセスです。既存の解決方法を採用することもあれば、新たなアプローチを見いだすこともある。そのいずれもがデザインの仕事であり、可能性を設計し選択する行為だといえます。

 そして最終的にそれらを調和の取れた形へと落とし込む。この一連のプロセスで「デザインとは何か」を説明できると思います。

 僕は以前から「会社をデザインする」という言葉を使ってきましたが、それもこの説明と重なります。会社というものは、MBAの科目にあるようなものも含めて、多様な構成要素で成り立っています。そこから解決方法を探し、選び取り、調和の取れた形に整えていく。それは平たく言えばビジネスモデルともいえますが、実際には、会社という存在そのものの形をつくっているという感覚に近い。そうした意味で、経営もまたデザインの営みだと捉えています。

――確かに、これは狭義のデザインの説明にもなりますし、広義のデザインにも当てはまりますね。

中川 構成要素を洗い出し、選択肢を創造して決定するという行為自体は、実は多くの人が日常的に行っていることです。しかし、その先で、それらを調和の取れた形に落とし込むことができるかどうかに、専門性の違いが表れます。プロダクトデザイナーであれば製品として、グラフィックデザイナーであればCI(コーポレートアイデンティティー)やロゴ、そして経営者であれば会社や事業の構造として、それぞれが最終的なアウトプットを形にしていきます。

 このとき重要になるのは、センスのような曖昧なものではなく、どれだけ多くの事例やアウトプットに触れてきたかという経験の蓄積です。圧倒的な量を見てきたからこそ、何が調和した形なのかを判断することができる。つまり、それがデザインの専門性を支えているのです。

 こう説明をすると、「えたいの知れないデザイナー」というイメージ、つまり「センスだけで決めている人たち」という誤解は、少し解けるのではないでしょうか。

 グッドデザイン賞もまた、優れたアウトプットを評価する場にとどまらず、こうしたデザインの捉え方を見つめ直す機会にしたいと考えています。デザインに関わる人だけでなく、ビジネスに携わる人々ともぜひ一緒に考えていきたいですね。

(後編に続く)

>>後編「共通言語をつくるだけでは足りない――経営とデザインが本当につながる条件とは」を読む