「デザイン経営」は新しいステージに。デザイナーは役割の拡張よりも「とがった」造形で世界を目指してほしい

美しい造形や意匠を極めることこそ、日本企業が海外で戦うための武器になる――。2018年に「『デザイン経営』宣言」を発表し、デザインの力を経営に生かすことの重要性を説いてきた経済産業省が、今、日本のデザインの現状に異論をぶつけた。経産省で国際競争力としてのデザインを重視し、政策を推進してきた佐伯徳彦氏が、真の競争力をもたらすデザインの今後について語った。(聞き手/音なぎ省一郎、構成/フリーライター 小林直美、撮影/まくらあさみ)

ゴールを見失ってしまった「デザイン経営」

――経済産業省が特許庁と共に「『デザイン経営』宣言」を出してから7年近くたちます。佐伯さんは、「デザイン経営」の浸透や現状をどう見ていますか。

 「『デザイン経営』宣言」のコンセプトは、デザインをもっと経営資源として活用しよう、デザインをブランディングやイノベーションに生かそう――というものでした。実際に宣言後、デザインやブランドを統括する責任者としてCDO(チーフ・デザイン・オフィサー)やCBO(チーフ・ブランディング・オフィサー)を置いたり、ロゴを変えたり、パーパスを作ったり、オフィスをおしゃれに改装するといった取り組みも耳にします。そうした意味では、「デザイン経営」は着実に定着しつつあるといえるでしょう。

 一方、この7年間で海外市場に強く訴求できるブランド開発やイノベーションがどれだけ進んだかというと、残念ながらすぐに事例は浮かんできません。ですから、今改めて「『デザイン経営』宣言」で目指すところを再定義し、最終的に目指すゴールを経産省としてはっきり示さなくてはいけません。それは任期中に私がやり残したこととして、後任の宮井(彩氏、2025年7月7日付で着任)に引き継ぎます。

――ゴールとは、具体的にどのようなものですか。

 海外のお客さんに訴求力のある形で商品やサービスがデザインされ、結果として利益をもたらすことです。経産省は、日本のクリエイティブが海外で稼げる形をつくることを望んでいます。少子高齢化が進む中、国内だけを見ていては未来を描くのは難しい。デザインは日本の良さを海外に押し出す上で重要な要素ですから、ここを戦略的に活用していきたいのです。しかし、実際にはデザイン業界の方々と温度差を感じるのも事実です。