クライアントの要望を120%叶え、会社の数字を追いかける。責任感が強い人ほど、いつの間にか「自分」を後回しにして、誰かの期待に応えるだけの「代理人」のような人生を送ってしまいがちだ。映画監督の長久允氏が書いた『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』を読んだ筆者は、その呪縛を解く、力強いメッセージを受け取った。(文/飯室佐世子)

脚本の教室Photo: Adobe Stock

主導権を明け渡すことの弊害

「いい仕事をしたい」という思いが強い人ほど、陥りやすい罠があります。

 それは、仕事の主導権を「自分以外」に明け渡してしまうことです。

 クライアントが喜ぶなら、会社が求めるなら、それらを優先する。

 そうやって他者の正解を優先し続けていると、心は少しずつ摩耗していきます。成果を出しても、なぜか満たされない。

 なぜなら、その成功はあなたの成功ではなく、「誰かの期待をクリアしただけ」の結果にすぎないからです。

アスファルトの上で気づいた
「真のクライアント」

 長久監督も、広告会社で猛烈に働く「代理人」の一人でした。しかしある日、体調を崩して路上のアスファルトに倒れ込んだとき、強烈な気づきが彼を襲います。

自分の人生のクライアントは、『自分』じゃんか

――『脚本の教室』P.29より抜粋

 それまでの彼は、無意識にクライアントや会社を一番優先すべき相手だと思い込んでいました。

 しかし、倒れて初めて「自分の人生というプロジェクト」の発注主は、他ならぬ自分自身であることに気づいたのです。

「自分を喜ばせる」ことが、
結果として世界を熱狂させる

 こういう話をすると、「それは単なるワガママではないか」と感じるかもしれません。

 しかし、現実は逆です。

 他者の顔色をうかがって作った「無難な正解」は、誰の心にも刺さりません

 一方で、作り手自身が「これが最高だ!」「これがやりたかったんだ!」と熱狂して生み出したものには、理屈を超えて人を動かすエネルギーが宿ります。

 長久監督が、誰に頼まれたわけでもなく、自分の衝動に従って作り上げた映画が世界一の評価を得たのは、その証明でもあります。自分というクライアントを徹底的に満足させようとした結果が、巡り巡って世界中の人々を喜ばせることになったのです。

 あなたは今日、誰のために汗をかきましたか?

 もし、誰かの期待に応えることに疲れてしまったのなら、自分を接待してみるのはいかがでしょうか。

「この仕事で、自分をどう喜ばせてやろうか」

 その熱量は、きっとあなたの想像もしなかった遠い場所まで届くはずです。

(本稿は、『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』の発売を記念したオリジナル記事です)