任天堂Trygve Finkelsen/iStock

任天堂が2025年5月に発表した2026年3月期の売上高予想は1.9兆円と、過去最高の水準を見込んでいる。同社の業績はこれまで数々の浮沈を繰り返しており、そこにはスマホゲームの台頭だけでは説明のつかないゲーム業界ならではの舵取りの難しさが垣間見える。そのビジネスモデルの強みと弱みを検証する。
※本記事は、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー電子版にて2025年8月20日に公開された好評記事(村上茂久氏の連載『財務とフレームワークで読み解く 強い会社のビジネスモデル』)のダイジェスト版です。

過去最高の売上高へ

 2025年6月5日、任天堂が新型ゲーム機「Nintendo Switch 2」(以下、Switch 2)を発売しました。初代Nintendo Switch(以下、Switch)の発売から8年以上が経過していたこともあってか、売れ行きは絶好調。人気がありすぎて転売対策のほうがニュースになっているほどです。

 Switch 2の発売に先立ち、任天堂は同年5月に発表した決算短信で、2026年3月期における売上高の予想を「1.9兆円」と記していました。実はこの数字は、任天堂にとっては過去最高の売上高を意味します。

 これまでの任天堂の過去最高売上高は、2009年3月期の1.83兆円。ゲーム好きならもうピンと来たと思いますが、これは2006年に発売されたゲーム機「Wii」が売れ行きを伸ばしていた頃のことです。任天堂はコロナ禍の巣ごもり需要で初代Switchが爆発的な売れ行きを示しましたが、そのSwitchですら塗り替えられていなかった過去最高の売上高を、Switch 2が実現しようとしているのです(図表1)。

任天堂出所:各年の任天堂有価証券報告書および2025年3月期決算短信より筆者作成。
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 WiiやSwitchなど、これまでにも記憶に残るヒット商品を数々手がけてきたことから、ともすると「任天堂は持続的競争優位を確立していそう」というイメージがあるかもしれません。ですが、実際には図表1からもおわかりのように、同社の売上高は過去20年間で大きく乱高下しており、競争優位はあってもそれが「持続的」と呼べるかというと心もとない状態でした。

 その不安定さを抜け出す秘策はあるのか。過去最高の売上高を見込むSwitch 2の戦略とはどのようなものなのか――そこで今回は、日本が世界に誇るゲームメーカーである任天堂を分析していきたいと思います。

Wiiの成功を継承できなかったWii U

 図表1で見てきたように、任天堂は2009年3月期に売上高1.83兆円という過去最高を記録した後は、前年対比で8年連続の減収、うち2012年3月期から2014年3月期までの3年間は営業赤字という憂き目に遭いました。

 筆者は研修等でよく、この図表1のグラフをお見せした後に「この時期、任天堂の売上高はなぜこれほど下がってしまったのだと思いますか」と質問します。

 その際によく挙がるのが「スマホゲームが台頭してきたから」という意見です。たしかにこの時期は、ディー・エヌ・エー、グリー、ミクシィ、ガンホーといったスマホゲームを主戦場とする企業が業績を伸ばしたタイミングと重なります。とはいえ、それはSwitch発売後も同様で、スマホゲームの人気はいまだに衰えていません。

 では、2009年3月期以降の任天堂が業績を落とすことになったより根本的な原因は何なのでしょうか。それは、世界的ヒットとなったWiiの後継機である「Wii U」が不振に終わったためです。また、Wiiの時期には携帯ゲーム機である「ニンテンドーDS」の売れ行きも好調でしたが、その後継機である「Nintendo 3DS」も売れ行きがいま一つの結果に終わりました。

 ここに、任天堂の業績を左右するカギがあります。

 図表2をご覧ください。これは任天堂のゲーム機の販売台数をまとめたものです。過去最高の売上高となった2009年3月期には、ニンテンドーDS(1.5億台)とWii(1.2億台弱)が任天堂のゲーム機の主力でした。

任天堂注:カッコは発売年。 出所:任天堂ホームページ コチラのサイトゲーム専用機販売実績より作成。
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 大ヒットとなったWiiの戦略は、「ブルーオーシャン戦略」の代表例としてもよく引き合いに出されます。ブルーオーシャン戦略とは、競争の激しい「レッドオーシャン」(既存市場)ではなく、競合がほとんどいない未開拓の市場「ブルーオーシャン」(新市場)を創り出すことで、高い収益性と成長を目指す戦略です。

 Wiiが発売された当時、ゲーム業界はソニー・コンピュータ・エンタテインメントの「Play Station 3」やマイクロソフトの「Xbox 360」など、高性能なグラフィックや処理能力を追求する性能競争が激化していました。これらの企業は主にゲームに慣れたヘビーユーザーをターゲットにしており、市場はすでに飽和状態に近づいていました。まさに競争の激しい「レッドオーシャン」だったのです。

 そこでWiiは、新たなアプローチを取りました。Wiiは最新のグラフィック性能ではなく、モーションセンサーを使った直感的な操作に重点を置き、ゲーム初心者や高齢者、家族など、これまでゲーム機に触れてこなかった層を取り込むことを狙いました。この狙いは当たり、Wiiは既存の競争軸から離れた新市場の創出に成功し、子どもからお年寄りまで幅広い層が楽しめる家庭内コミュニケーションツールとしても活用されたのです。

 しかしこれほどの成功にもかかわらず、後継機であるWii Uは、Wiiが築いた新顧客をうまく引き継ぐことができませんでした。Wii Uは、Wiiをベースにしつつコントローラーに画面を埋め込むゲームパッドをつけたりしたことで、結果的に複雑な仕様となりました。おそらくはそのせいで、シンプルなゲーム性に魅力を感じていた新顧客をつなぎ留められなかったのでしょう。結果、Wii Uの販売台数はWiiの9分の1にまで減少してしまいました。

 先の図表2をもう一度ご覧ください。業績不振に陥った時期に任天堂のゲーム機の主力だったWii U(1356万台)もニンテンドー3DS(7594万台)も、売れ行きがパッとしなかったことがわかります。

ソフトをどれだけ売り伸ばせるかが物を言う

 さて次に、ゲーム業界にとってはハードと並んで重要な要素となるソフトについても見ておきましょう。

 任天堂は1980年代のファミコンの時代から、「ゲーム機というハードを売り、そのハードの上で動くゲームソフトを拡充させることで長くプレイしてもらう」というプラットフォーム型のビジネスモデルを展開してきました。その基本姿勢は、現在のSwitch 2に至るまで変わっていません。

 となると、ハードに対して、ゲームソフトはどのくらい売れるのかが気になるところです。そこでゲーム機別にソフトの販売本数を比較してみたのが図表3です。

任天堂注:カッコは発売年。 出所:任天堂ホームページ ゲーム専用機販売実績より作成。
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 ご覧の通り、ダントツの1位はSwitchで、なんと13.9億本も売れています。任天堂のゲーム機の中で最も売れたニンテンドーDSですらソフトの販売本数は9.5億本ですから、Switchはその1.5倍近くも売れた計算になります。逆に、ハードの売れ行きが不振に終わったWii Uは、ソフトの販売本数においても最下位(1億本)に留まっています。

 次に、任天堂のソフトの販売数とハード販売数の割合をゲーム機ごとに見てみます(図表4)。ゲーム機の販売台数に対して、ゲームソフトが最も売れたのはゲームキューブで9.6倍(ゲームキューブ1台につき平均9.6本のゲームソフトが売れたことを意味します)、2位がSwitchの9.1倍で、3位にはWiiの8.3倍と続きます。

任天堂注:カッコは発売年。 出所:任天堂ホームページ ゲーム専用機販売実績より作成。
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 ここからわかることは、任天堂の売上高にとって、ゲーム機の販売台数に加えて、ゲーム機1台当たり何本のゲームソフトが売れるかが売上を押し上げる大きなカギを握っているということです。
 とりわけSwitchのように、ハードの販売台数が圧倒的に多く、かつ1台当たりのソフト販売本数も多い機種では、この「掛け算」によって売上の規模が大きく伸びる構造が成立します。

 一方で、ゲームキューブやWii Uは、コアユーザーを捉えたことで、1台当たりのソフト販売本数こそ多かったものの、ハードの普及台数が伸び悩んだために、全体としての売上への寄与は限定的だったと言えます。実際、ゲームキューブやWii Uのゲーム機の販売台数は、任天堂の歴代ゲーム機種の中で、下から2番目と最下位となっています。

 このように考えてくると、任天堂にとっては「ゲーム機(ハード)の販売台数」と「ゲーム機1台当たりの平均ソフト販売本数」の両方が揃うことが、安定した収益拡大の条件といえるのです。

さらに、Switchはゲームの戦い方をどう変えたのか? Wii Uの悪夢をどう乗り越えたのか? 続く記事を読みたい方は、「DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー電子版」で!