次に「関係性要因」です。
誰かとの「関係性」に問題があったために、心理的リソースを消耗しているかどうかを探るのです。
クレーム対応で立ち往生してしまった新人が、隣に座っている先輩に相談できればよかったのですが、もしかすると、その先輩のことを恐れていたために、若手社員がひとりで問題を抱え込まざるをえなかったのかもしれません。
であれば、リーダーがその先輩に対して、「新人が困ってたら教えてあげてね」「もうちょっと、笑顔で接してやってほしい」などと伝えたり、ふたりが打ち解けることができるような会食の場を設けたりすると、「根本対処」に結び付けられるかもしれません。
最後に「構造要因」です。
心理的リソースの消耗が起きている背景に存在する、「目標・役割・ルール・仕組み」の欠陥を探るのです。
もしかすると、新人に渡していた「クレーム対応マニュアル」の内容が古くて使い物にならなかったのかもしれないし、そもそも新人にクレーム対応を教える仕組みがなかったのかもしれません。であれば、マニュアルを更新したり、クレーム研修をプログラム化するといった「根本対処」が考えられるでしょう。
このように、「クレーム対応で消耗した」というシンプルな出来事であっても、その背景にはさまざまな「要因」が存在しています。
大切なのは、「個人要因・関係性要因・構造要因」の3つの視点で、考えうる「背景要因」を出し尽くすことです。そして、どの「背景要因」に対処するのが最も効果的・効率的かを検討したうえで、最善の選択肢を特定するのです。
なぜなら、効果の薄い「根本対処」に労力をかけることで、心理的リソースを無駄に消費すべきではないからです。だから、深く考えずに、「商品知識が足りないのなら、教えておこう」「手っ取り早いから、新人と先輩の会食でもやっとくか」などと、手あたり次第に対処策を講じることはやめたほうがいいでしょう。
【ステップ4】 根本対処する
「背景要因」を列挙したうえで、「根本対処」策を絞り込んだら、それを実行します。
たとえば、「クレーム対応のマニュアルは、新人に限らず、ベテランも参照にするものだから、これを機に新しく作り替えよう」「そのマニュアル作成に新人も加われば、クレーム対応の勉強にもなるだろう」と考えるならば、「クレーム対応マニュアルの改訂プロジェクト」を立ち上げて、リーダーがそのプロジェクトに強くコミットすると宣言するといいでしょう。
このように、「気づく→緊急対処→深める→根本対処という4つのステップ」を意識しながら、メンバーの消耗に対処するというサイクルを回していくことで、チームは着実に好循環へと向かっていくはずです。
大切なのは、「緊急対処」で満足しないこと。
そして、「個人要因・関係性要因・構造要因」という3つの視点をもって、チームの消耗の「背景要因」を深く掘り下げていくことです。
そのうえで、考えうる限りの「背景要因」を列挙したうえで、最も効率的・効果的な「根本対処」を実行する。こうすることで、チームの消耗要因は少しずつ解消され、チームの「サイパ」は高まっていくのです。
(本原稿は『なぜ、あなたのチームは疲れているのか?』を一部抜粋・加筆したものです)
櫻本真理(さくらもと・まり)
株式会社コーチェット 代表取締役
2005年に京都大学教育学部を卒業後、モルガン・スタンレー証券、ゴールドマン・サックス証券(株式アナリスト)を経て、2014年にオンラインカウンセリングサービスを提供する株式会社cotree、2020年にリーダー向けメンタルヘルスとチームマネジメント力トレーニングを提供する株式会社コーチェットを設立。2022年日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー受賞。文部科学省アントレプレナーシップ推進大使。経営する会社を通じて10万人以上にカウンセリング・コーチング・トレーニングを提供し、270社以上のチームづくりに携わってきた。エグゼクティブコーチ、システムコーチ(ORSCC)。自身の経営経験から生まれる視点と、カウンセリング/コーチング両面でのアプローチが強み。
【著者からのメッセージ】
はじめまして、櫻本真理です。
最近、さまざまな企業の現場リーダーから、「チームをマネジメントしていくの、ちょっと疲れてきちゃったな……」といった声を聞くことが増えてきました。
人員、予算などのリソースが限られているため、チームの目標を達成するのが難しい状況のなか、なんとかメンバーのモチベーションを高めてもらおうと、あの手この手の働きかけをしています。しかし、そうすることでかえってメンバーとの関係がギクシャクしているような気がするとおっしゃるのです。
しかも、メンバー同士が雑談で盛り上がるようなこともあまりなく、職場にはなんとなく白けたような空気が漂います。お互いに積極的に協力し合ったり、情報を交換し合ったりといった機運もあまり見られない。まさに、チーム全体がどんよりと疲れているように感じられるというのです。
そんなとき、リーダーが目を向けるべきものが、本書のテーマである「心理的リソース」です。
心理的リソースとは聞き慣れない言葉かもしれませんが、私たちはいつも、この心理的リソースを費やしながら仕事をしています。
職場での日常を思い返してください。資料作成、経費精算、会議・プレゼンの準備、データ入力、メール対応、上司・部下との1on1、クライアントとの折衝、他部署との調整、企画立案、突発的なトラブル対応……。
私たちは日々、こうしたタスクに追われていますが、その一つひとつをこなすたびに、心がすり減っているのを感じているはずです。そのときにすり減らしているのが、「心のエネルギー」とでもいうべき活力の源です。
このエネルギーを、マネジメントの視点で見ると、チームとして成果を上げるための貴重な「経営資源」ということになります。そこで、このエネルギーのことを、「心理的リソース」と名付けたというわけです。
そして、チームが停滞気味で、なんとなく疲弊していると感じるならば、メンバーたちがなんらかの理由によって心理的リソースを浪費し、それが枯渇しかかっている可能性を疑ってみるべきなのです。
たとえば、依頼した書類作成に時間がかかりすぎているメンバーがいたとします。このメンバーは、何もしていないように見えたとしても「この判断で合っているだろうか?」「この表現は間違ってるかな?」などと頭のなかで思考がループすることで心理的リソースを消費しているのかもしれません。
もしそうだとすれば、そのメンバーに対して、「まだですか? 早くまとめてください」などと伝えても、メンバーは焦りの感情を覚えることによって、さらに心理的リソースを消耗してしまう結果を招くだけでしょう。
それよりも、書類作成の業務を依頼するときのミーティングに少しの時間を費やし、そのメンバーの疑問点を解消してから取り掛かってもらうようにすれば、心理的リソースの浪費を防ぎ、その節約した心理的リソースを、書類を見やすくする工夫や、内容の整理に使ってもらえたはずです。
あるいは、リーダー自身の無意識的な言動が、メンバーの心理的リソースを奪ってしまっている可能性もあります。
たとえば、リーダーが、仕事のストレスから知らず知らずのうちに不機嫌な表情になっていたとします。本人からすれば、自分の表情が誰かに影響を与えているとは考えてもいないかもしれません。しかし、不機嫌そうなリーダーに話しかけるのは、誰にとっても嫌なものです。
先ほどのメンバーも、書類作成の途中で何度もリーダーに疑問点を確認しようとしたけれど、不機嫌そうなリーダーの様子を見て、相談するのを躊躇していたのかもしれません。
つまり、本来であれば、「価値を生み出す仕事」に使われていたはずの心理的リソースが、不機嫌なリーダーのご機嫌をうかがうという「価値を生み出さない」ことのために使われていたということです。これでは、チームの成果が上がるはずがありません。
これらはほんの一例ですが、チーム内の心理的リソースの状況を把握したうえで、それの浪費を防ぎ、それを上手に活用する能力を身につけることが、これからのリーダーには求められます。
本書では、そのために必須の知識やノウハウをふんだんに盛り込みました。本書を読むことで、心理的リソースという新しいレンズを手に入れ、チームやメンバーを見つめていただきたいと願っています。
その視点でチームを見つめると、これまでチームの「貴重な資源」を何に使っていたのかがはっきり見えてきます。すると、なぜこれまでうまくいかなかったのかも理解できるようになるでしょう。そして、適切な手立てを講じることで、メンバーの心理的リソースを増やしていくことができれば、見違えるように活気に溢れ、成果を生み出すチームを作り出すことができるようになるのです。