まず、北京の日本大使館や、中国で暮らしている9万人以上の邦人の安全が脅かされる。中国には9万2928人の邦人がいる(外務省 海外在留邦人数調査統計 2025年10月1日現在)。そして1万3034社の日系企業が進出してビジネスをしている(日本企業の「中国進出」動向調査 2024年)。このような人々が、高市首相の「謝ったら負け」のツケを払わされる。

 冒頭で想像していただいたように、こういう問題が起きると、愛国心の強い人々が「どう考えてもあちらに非があるのは明らかなのに謝罪しない隣国」に対して憎悪を燃やす。そして、本来は国家間の対立であるはずなのに、国民にまで敵意をむき出してきて攻撃・暴力を振るう。

 この国家と国民の混同は「正義感」の強い人ほど陥る。ロシアがウクライナに侵攻した際にも、日本国内のロシア料理店の看板が壊されたり、ロシア人への誹謗中傷が問題になったように、正義感の強い愛国的中国人が「自分の非を認めず謝罪もしない日本人」を懲らしめる、という問題が起きる可能性があるのだ。

「日本に帰れ!」「軍国主義者め」と罵られるくらいならまだいい。中国に住む邦人に危害が及ぶ恐れもある。

 そして、もしそういう問題に、軍や政府の人間が関わっていても中国は決して自分たちの非を認めないだろう。「この前、中国大使が襲われたときも日本は謝罪しなかっただろ」と逆ギレしてくるはずだ。

 そうなったら日本国内の反中感情は一気に高まる。「やられたらやり返す、倍返しだ!」と言わんばかりに、在日中国人に敵意を向ける「国士」もあらわれる。今回、中国大使館に不法侵入した男性のように愛国心あふれる自衛官の中には「先手必勝」を主張する人々もあらわれる。

 こういう「憎しみの連鎖」からの“暴発的な武力衝突”が、泥沼の戦争に発展する。闇夜でどちらが先に撃ったのかわからない銃弾で始まった日中戦争がそうだったのではないか。こういう最悪の展開を避けるためにもここで一度、緊張関係をクールダウンさせるような「謝罪」が必要なのだ。