ただ、今回のことで日本が中国に頭を下げなければ国益が損なわれると考える最大の理由は別にある。あのような「自衛官の暴走」に対して政府が自分たちに非があったと公に認めて謝罪をしておかないと、「愛国者の暴走が制御できなくなってしまう」という日本の存亡に関わる大問題が起きてしまうからだ。
張作霖事件の処罰に対する
昭和天皇の後悔
このまま日本政府が公式に謝罪をしないということは、あの自衛官の行動に対して「法を犯したのダメだけど、そこまで悪いことしたわけではないよね」と政府が思っているということなる。
つまり、政府として「自衛官の愛国心からの暴走」を暗に容認し、その思いについて一定の理解を示した、という誤解を招いてしまうのだ。
実際、一部ではそういうムードになっている。今回の自衛官のやったことにはまったく支持をしていなくとも、「気持ちはわかる」と共感しているような自衛官や愛国者はかなりいる。元航空自衛官で自衛隊の内部事情に詳しい評論家・潮匡人氏は「女性自身」の取材に対して、自衛隊内のムードについて言及している。
「容疑者の主張に対して『気持ちはわかる』というような受け止め方も、かなりの範囲で広がっているのでしょう」(女性自身 2026年3月31日)
もちろん、ほとんどの自衛官はどんなに中国のことを脅威に思っていたとしても、中国大使に直談判しようなんてことは考えるわけがない。しかし、自衛官は陸海空と統合幕僚監部等を合わせて約22万人もいるのだから、中には今回の23歳の3等陸尉のような「過激な愛国行動」に出ようと考える者もあらわれてしまう。
今回、政府が謝罪しないということは、そういう一部の過激な愛国者の「暴走」を制御するどころか、煽ってしまう恐れがあるということが言いたいのだ。
「そんなのは貴様の妄想だ!」というお叱りを頂戴するかもしれないが、国防に関わる人々の強烈な愛国心が暴走を招き、制御できなくなってしまうということは、かつてこの国で起きた極めて「普遍的な現象」だ。
日本が日中戦争、日米戦争という勝ち目のない泥沼の戦争に突っ込んでいった原因については、専門家によってさまざまな見解があるが、昭和天皇は1928年の張作霖事件が発端だったという認識を示している。
「張作霖事件のさばき方が不徹底であつた事が 今日の敗戦に至る禍根の抑々(そもそも)の発端故(ゆえ)」(昭和天皇拝謁記――初代宮内庁長官田島道治の記録)(日テレNEWS NNN 3月15日)
張作霖爆殺事件は1928年6月4日、日本の関東軍が奉天軍閥の指導者・張作霖を爆殺した事件。
当時、昭和天皇に仕えていた元侍従の岡本愛祐氏によれば、田中義一首相が陛下の御前に出て「誠に残念な事ではあるけれども、これは日本の軍人がやった事で誠に申し訳ない事だと」と報告するも陸軍は関与を認めず、日本の軍人でなく中国側のやった事だと反論したという。







