「税務署が自由に税金を決める!?」納税者が激怒する「通達6項」の正体とは?
本連載は、相続に関する法律や税金の基本から、相続争いの裁判例、税務調査で見られるポイントを学ぶものです。著者は相続専門税理士の橘慶太氏で、相談実績は5000人超。遺言書、相続税・贈与税、不動産、税務調査、各種手続といった観点から相続の現実を伝えています。2024年から始まった「贈与税の新ルール」等、相続の最新トレンドを著書『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』から一部抜粋し、お届けします。
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「税務署が自由に税金を決めるのか?」納税者が恐れる「通達6項」とは?
本日は「相続と税務署」についてお話をします。年末年始、相続について家族で話し合った方も多いかと思います。ぜひ参考にしてください。
通達6項とは?
相続税や贈与税の話でしばしば登場するのが「通達6項」です。通常の評価方法で計算しただけでは実態に合わず、あまりに不自然な節税になっている場合、税務署側が「その評価では認められません」と踏み込んでくるのです。納税者にとっては非常に気になるルールでもありますし、「そんなの、税務署が自由に税金を決められるということなのでは?」という疑問も出てきます。
では、どんなケースが危ないのか。まず大きいのは金額です。やはり金額が大きくなればなるほど目をつけられやすくなります。1億円を超えるような案件はかなり目立ちますし、5000万~6000万円規模でも十分に大口です。税務署が気にするのは、まさにそうした「見た目のインパクト」の大きい案件です。
もう1つ重要なのが、購入から贈与までの期間です。買ってから間もないうちに贈与していると、「最初から贈与するつもりで買ったのではないか」と見られやすくなります。たとえば購入から3か月後に贈与したとなれば、資産運用のために取得したというより、評価差を利用して移転するために動いたと受け取られても不思議ではありません。ここで大事になるのは、「最初から贈与目的だったわけではない」と説明できるかどうかです。当初は自分で運用するつもりだったが、事情が変わって管理が難しくなったので子どもに贈与した、というような経緯に説得力があれば、税務署としても課税しにくくなります。
さらにリスクを高めるのが、贈与を受けた側がすぐに売却してしまうケースです。買う、贈与する、売る、という流れが短期間にきれいにつながっていると、「これは税負担を減らすためにあらかじめ組まれたシナリオではないか」と疑われやすくなります。実際、通達6項が問題になった事案でも、贈与後すぐに売却していることが、不自然さを印象づける要素になっています。税務署から見れば、個々の行為をばらばらに見るのではなく、一連の流れ全体を見て判断しているわけです。
では、通達6項は実際どれくらい使われているのでしょうか。ここは実態が見えません。というのも、通達6項が適用されても、その後に納税者側が争わなければ表に出てこないからです。裁判や争訟にまで進んで初めて外から認識できるため、公表されている件数はあくまで氷山の一角です。訴える前に納税者側が断念しているケースも相当数あると考えられ、正確な全体像は見えにくいのが実情です。
納税者に戦う余地はあるのか?
それでも、もし通達6項を適用されたら、戦う余地はあるのでしょうか。実務では、「これは最初から仕組まれた取引ではない」という事実関係の反論がまず重要になります。しかし、争点はそれだけではありません。もっと根本には、「国は法律に基づいてしか課税できない」という租税法律主義の問題があります。税金は法律に定めがあるからこそ課せられるのであって、行政の判断だけで自由に決められるものではありません。
通達6項をめぐる最大の論点は、「どこまでが適正な課税で、どこからが恣意的な課税なのか」という線引きにあります。納税者側から見れば、通常のルールに従って評価したのに、あとから「それでは不自然だ」と言われるのは納得しにくい。一方で国側から見れば、形式だけ整えて極端な節税を行うスキームを放置するわけにもいかない。その綱引きの中に通達6項があります。
最高裁判例でも、納税者側はこうした憲法上の考え方を含めて争いましたが、最終的には通達6項の必要性が認められ、納税者側が敗れました。つまり現時点では、明らかに不自然な節税と見なされる取引には、通達6項という強力なカードが存在している、ということです。だからこそ重要なのは、評価差だけに着目して安易に動くことではなく、その取引に本当に合理的な経緯や実態があるのかを、最初から丁寧に積み上げておくことなのです。
(本原稿は『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』の一部抜粋・加筆を行ったものです)







