栄養学を軽視しする日本人
脚気や結核が流行した背景とは?

 そのころ日本軍にとって最大の健康問題は脚気(かっけ)でしたが、森は脚気が伝染病だと唱え、陸軍の食事を変えませんでした。このため25万人もの脚気患者が出て、うち2万8000人が死んだのです。

 戦死者の総数が4万7000人でしたから、脚気で死んだ人がいかに多かったかがわかります。原因は日本人の栄養不足にあったと考えられます。このとき海軍の元軍医総監で、イギリスへの留学経験があった高木兼寛は、こう主張しました。

「イギリス人は体が大きく、脚気になる人はいない。日本の国民病の結核も欧米では流行していない。違いは肉を食べているかどうかにある。日本人にも肉を食べさせないと、軍人の体格はよくならないし、脚気や結核にかかって簡単に死んでしまう」。

 高木は日本人に肉を食べさせる運動をはじめ、考えついたのが海軍カレーだったというのです。

 ただ、戦前は豚肉も高級品でした。戦後、アメリカから肉が入り、養豚が盛んになり、脱脂粉乳や牛乳を飲むようになり、たんぱく質やコレステロールを摂れるようになってから、一気に栄養状態がよくなって脚気の患者が減り、結核が国民病でなくなりました。

 このように日本人の死因の変化には、栄養の要素が大きくからんでいます。脱脂粉乳のおかげで結核患者が激減しました。脳出血が減ったのも、たんぱく質とコレステロールが増えて血管が強くなったからだと考えられます。

 逆にいえば、がんになる日本人が多いのは、免疫力がまだ弱いせいでしょう。免疫細胞は感染症だけでなく、日常的に作られるがん細胞にも有効でなければなりませんが、日本人はまだその点が足りていないのではないでしょうか。

 というのも、日本は摂取カロリーが北朝鮮とルワンダの次に少ない栄養不足の国。一般には栄養が足りない国は、国家が失政を繰り返していたり、内乱状態だったりするものです。ところが日本は例外的に、食べ物が余っているのに栄養不足なのです。

 栄養を摂りすぎる害ばかり強調され、足りない害をだれも指摘しないからです。