現在の漁獲量の頭打ちは、「現時点で経済価値を有する有用資源」に限った現象なのです。そもそも未利用資源は漁獲すらされず、資源量もわかりません。例えば、南氷洋のナンキョクオキアミ、世界中の深海に生息するハダカイワシ類などの利用技術が開発され、その経済性が十分であるなら、総漁獲量が大きく拡大するはずです。中東で安く原油が生産される間は北米でシェールガス開発が進まないのと同じで、現時点で経済的に儲からない水産資源は利用されないのです。しかし、いつか転機は訪れます。

漁業は乱獲することはあっても
種が絶滅するまでの暴走はない

 人類の能力では、海洋バイオマスを獲り尽くすことなど到底できません。ただし、ある地域で特定の資源を過剰に漁獲した結果、その資源と漁業が崩壊してしまうケースはあります。漁場が狭く、閉鎖的で、資源に移動性が乏しい場合、過剰な漁獲によって自律更新性が失われてしまうのです。これが一般的に「乱獲」と呼ばれる現象です。多くの場合、価値が高い魚だけを集中的に狙う強欲な操業、つまり漁業をむやみに近代化することでこうした現象が起こります。「乱獲」とは経済的な現象なのです。

書影『日本漁業の不都合な真実』(佐野雅昭、新潮社)『日本漁業の不都合な真実』(佐野雅昭、新潮社)

 しかし、漁業は乱獲を引き起こすことはあっても、種を絶滅させるまで暴走することはありません。そうした事態を防ぐセーフガード機能を内部に持っているからで、採算が合わない水準まで資源が減少したとき、操業は切り上げられ、誰もその資源を漁獲しなくなります。コストが高い漁業ほど早く見切られ、採算が合わなくなれば漁業は休止されます。

 この時点でもまだ相当の資源が残存しているため、再び資源を回復させることが可能です。漁業における採算分岐点はそこまで低くないので、漁業によって特定種が絶滅に追いやられることにはなりません。そしてしばらく待てば、資源量は自然回復します。

 タイセイヨウクロマグロは一時期乱獲に陥りましたが、絶滅危惧種に指定されて規制が強化された結果、今ではかなり増えました。日本近海のクロマグロも同様で、漁業者と行政が議論と我慢を重ねて取り組んだ資源管理の成果です。ある魚が一時的に「獲れない」ことを過度に問題視し、失敗を繰り返しながらも真摯に資源管理に取り組む漁業者や政府を批判するのは筋違いだと筆者は思います。