桶に入ったうなぎ写真はイメージです Photo:PIXTA

うなぎが一番美味しい季節はいつでしょうか?「え、夏じゃないの?」と思った人は、やや勘違い。ミステリアスで未だ謎の多い生き物であるうなぎの生態から、本当の答えを探りましょう。
※本稿は、高城 久『読めばもっとおいしくなる うなぎ大全』(講談社)の一部を抜粋・編集したものです。

うなぎが一番おいしい季節

 魚は産卵のためにたくさんの栄養を蓄えます。ですから魚は、一般的に産卵前が最もおいしいといわれています。うなぎも例外ではありません。秋から初冬は脂のりが良く、食感もやわらかくなります。天然うなぎに関しては、現在もその常識が生きています。

 川で成長したうなぎは、背中は深緑色、腹は黄色味がかっていて「黄うなぎ」と呼ばれます。秋から初冬にかけて川を下り、産卵のために海へと向かううなぎは、身体が黒ずんで光沢を放つ「銀うなぎ」へと変わります。体側の模様が織物の綸子(りんず)に似ているので「綸子うなぎ」とも呼ばれます。また、川を下ることから「下くだりうなぎ」ともいわれ、天然うなぎの中でも珍重されています。

 平賀源内が広めた「本日丑うしの日」によって、うなぎのおいしい季節論争は複雑化しています。ご存じの方も多いと思いますが、現在流通している活鰻の99%が養殖うなぎです。しかも1970年代に普及したハウス式温水養殖池のおかげで、夏の土用の丑の日前に大量出荷が可能になりました。栄養価の高い餌を与えて育てるので、脂のりも良く、やわらかいうなぎです。多くの方がうなぎに抱いている「やわらかくておいしい」というイメージは、夏の養殖うなぎのことなのです。

 ひと昔前まで、秋から冬以降の国産養殖うなぎはうま味が増す反面、皮が硬くて調理がしにくく職人泣かせでした。しかし、最近は養殖技術の進歩とこだわりを持ってうなぎを育てる人たちのおかげで、秋以降もおいしい養殖うなぎが出荷されるようになりました。

 養鰻場を営んでいる方を池主(いけぬし)さん、管理している方を池守(いけもり)さんと呼びますが、私が出会った池守さんの中には並々ならぬこだわりを持っている方が多く、これは池守というよりも養鰻家(ようまんか)かと呼んだ方がしっくり来ると、私は「養鰻家」と呼び始めました。うなぎファンの中には、推しの養鰻家のうなぎを出荷順に一番仔(いちばんこ)、二番仔(にばんこ)と呼んで味わいの違いを楽しむ方もいるほどです。

 結論から言うと、現在は、夏も冬も一年を通じてうなぎがおいしく食べられるということです。つまり、「うなぎは夏」と限定せずとも、年間を通して四季折々の味わいの違いを楽しめるというわけなのです。そもそも土用は年4回ありますから、うなぎ大好きな筆者としては、年4回、季節ごとの土用に、うなぎを楽しむことをお勧めします。