バブル景気の真っただ中、健康意識など誰も気にしないように見えた時代に、現場のタクシー運転手はカロリー等を考えて缶コーヒーを選んでいた。このオーナーの訴えをきっかけに、長野地区限定で推奨が復活。同一JANコード(商品識別コード)で一度取り消した推奨を再び認めるのは、当時としては前例のない対応だった。
この出来事が社内に「健康志向のニーズは存在する」という確信を生み、商品名をシンプルに変える機運が高まった。
「BLACK」というカテゴリー名をそのままブランド名にする。分かりやすさを最優先にしたこの発想から、1994年にUCC BLACK無糖が生まれたのである。
「香料無添加」が最大のこだわり
挑戦を続けた30年
UCC BLACK無糖が30年以上守り続けてきた最大のこだわりは「香料無添加」だ。原材料はコーヒーのみ。添加物に頼らず、缶の中においしいコーヒーの香りを閉じ込めるのは、技術的にきわめて難しい挑戦だった。
コーヒーの香りは、焙煎した豆を粉砕した瞬間に最も豊かに立ち上がる。しかし、その香りは揮発性が高く、粉砕直後から急速に消えていく。そこへ抽出という工程が加わると、高温になるほど香りはさらに飛んでしまう。
さらに缶コーヒーには、充填後に長期保存を可能にするための加熱殺菌という工程が待ち受けており、その温度は抽出時よりも高い。つまり、豆が持つ香りのポテンシャルは、粉砕、抽出、充填、殺菌という各工程で段階的に失われていくのだ。
UCC上島珈琲 マーケティング本部 飲料マーケティング部の紙谷雄志部長 Photo by M.F.
「豆のポテンシャルをいかに残しながら、それぞれの工程を乗り越えるか。歳月をかけて技術を積み上げてきました」と紙谷氏は説明する。
香料を使えば簡単に安定した香りを再現できる。それでもUCCがその誘惑に乗らなかったのは、コーヒー専業メーカーとしての矜持からだ。初代発売時は香料を使用していたが、その後の開発を通じて香料を排除し、レギュラーコーヒー本来の味わいを追求し続けた。
その取り組みの到達点が、1997年に導入した独自の「TTND製法(Triple Temperature Natural Drip製法)」だ。低温、中温、高温の三段階で抽出することで、香りとコクを両立させるこの特許製法により、香りは従来比で約30%向上したとされる。
そして2017年には「3温度ナチュラルドリップ新製法」の特許を新たに取得し、シャープな香り、コク、キレという軸で品質をさらに研ぎ澄ませた。2019年には低温抽出部分を強化し、トップフレーバー(口に含んだ瞬間に感じる最初の香り)の強度を高めている。







