「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。戦略とは何か。変化の時代に、企業は何を問い直すべきなのか。本連載では、さまざまな経営や組織の悩みについて坂田氏に話を聞きながら、同書の考え方を現在進行形の課題へと結びつけていく。
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「チームを鍛えれば勝てる」
という発想の限界
――マネージャーの中には、優秀なメンバーを揃え、チームのスキルを高めることが戦略の王道だと考えている方も多いと思います。この考え方をどう見ますか?
チームを強くすることは、もちろん重要です。ただし、それだけを追求していると、時代の変化に置いていかれるリスクがあります。
「内部を強化すれば勝てる」という発想は、企業がモノやサービスを一方的に提供していた時代の戦略です。
しかし現在は、競争の前提そのものが大きく変わっています。
――具体的に、どのように変化したのでしょうか?
かつては、企業の中で価値の多くが完結しており、どれだけ優れた製品やサービスをつくれるかが、そのまま競争力につながっていました。
しかし現在は、一つの企業の中だけで価値が完結するケースはむしろ少なくなっています。複数の企業やプレイヤーが関わる前提で価値が成立し、その組み合わせや構造そのものが競争力になる。そうした環境に変わってきています。
こうした時代には、単にチームのスキルを磨くだけでなく、「誰と、どのような仕組みで価値を生み出すか」という問いに答えられるかどうかが、勝負の分かれ目になります。
私がシンガポールや東南アジアで支援している企業でも、内部の人材育成には熱心でありながら、外部との連携や仕組みづくりが後回しになっているケースを多く見てきました。
その結果、外部との協力によって、単独では実現できなかった成果を実現した競合に、先を越されてしまうのです。
なぜ「タテに強い組織」は
「ヨコ」に弱いのか
――日本の組織は、意思決定や統制といった面では強いイメージがありますが、外部との協力関係の構築は苦手なのでしょうか?
これは非常に本質的な問題です。日本の組織は、タテの意思決定には強くても、ヨコの合意形成には脆弱な傾向があります。
部門内では迅速に意思決定できる一方で、異なる部署や外部組織との連携になると、途端に動きが鈍くなる。こうした現象は社内でも見られますが、外部との関係ではさらに顕著です。
AIや各種システムによって、部門内の判断は効率化されつつあります。
しかし、組織をまたいで関係者をつなぎ、共通の目的に揃えていくプロセスは、依然として人が担う必要があります。
――その難しさは、どこにあるのでしょうか?
タテの意思決定は、役割や権限に基づいて進めることができます。一方でヨコの連携は、それぞれ異なる前提や利害を持つ人同士が納得しなければ前に進みません。
かつて私の上司に、このヨコの合意形成を非常にうまく進めていた方がいました。マーケティング、営業、研究開発、財務といった多様な部門が関わる全社横断プロジェクトを担っていたのですが、感情的な対立を丁寧に解きほぐしながら全体を前に進めていました。
参画者はそれぞれの部門の代表でもあるため、自部門の立場から判断するのは自然なことですが、それが結果として対立を生みます。
そこで「この施策の本来の目的は何か」「全社にとってどちらがより意味のある選択か」という問いを繰り返し投げかけ、議論の軸を引き上げていきました。
結果として、部門を越えた協業が成立し、プロジェクトは前に進みました。
これからの「勝ち方」は
「場をつくる力」にある
――では、チームを強くすることの先に、マネージャーが見据えるべき「勝ち方」とはどのようなものでしょうか?
鍵になるのが、「場づくり」という考え方です。
企業が一方的にモノやサービスを提供するのではなく、顧客やパートナーと共に価値を生み出す「場」を設計することが、これからの時代の競争力の源泉になります。
たとえばコープさっぽろは、経営危機を乗り越える過程で、単なる食品スーパーとしての競争力強化にとどまらず、移動販売や巡回型健康診断、学校への給食提供などを展開してきました。
多様なプレイヤーを巻き込みながら、地域コミュニティを支える「場」そのものをつくり続けている点に特徴があります。
また精密部品メーカーのミスミも、部品を売るだけでなく、加工工場とユーザー企業をつなぐプラットフォームへと進化しています。単独の企業努力ではなく、外部のプレイヤーを組み込んだ構造によって価値を拡張しています。
――ただ、外部との連携を進める前に、チームをある程度まとめておく必要はありますか?
順序は非常に重要です。戦略実行の初期段階では、価値観や方向性を共有したチームで足並みをそろえる必要があります。
ここで言う「足並みがそろう」とは、スキルが均質であるという意味ではありません。メンバー全員が「戦略を自分事として捉え、最後までやり抜く姿勢を持っているかどうか」です。
その土台ができてから、外部との協力関係へと広げていく。内部と外部、タテとヨコ、この両方を動的に組み合わせる力こそが、戦略実行の成否を分けます。
「戦略のデザイン」とは
どういうことか
――坂田さんの著書『戦略のデザイン』では、「場づくり」戦略の考え方を体系的に解説されていますが、「デザイン」という言葉には、どんな意図があるのでしょうか。
「デザイン」には、「形のないものを形にする」という意味があります。
「誰と組むか」「どんな場をつくるか」といった問いは、最初から明確な答えがあるわけではありません。むしろ曖昧で、輪郭のない状態から始まります。それを整理し、言語化し、実行できる形に落とし込む。
そして、チームや外部パートナーが動くための地図を描く。このプロセスを、私は「戦略をデザインする」と呼んでいます。
戦略は、一部のセンスのある人、もしくは立場ある人が考えるもの、という思い込みがまだ根強くありますが、それは完全に誤解です。
本の中では、「誰と実行するか」「失敗から何を学ぶか」など、戦略を組み立てるための問いを提示しています。
適切な問いに沿って順を追って考えれば、マネージャーでも実践的な戦略は十分に描けます。
――最後に、マネージャーが今すぐ見直すべき視点を教えてください。
「自分のチームでどう戦うか」という問いを手放すことです。
代わりに、「誰と組めば、自分たちだけでは到達できない価値が生み出せるか」という問いへと、思考を切り替えてみてください。
競合他社に勝つことを目的にするのではなく、顧客や社外のパートナーを巻き込みながら、新しい価値が生まれる「場」を設計することに目を向けるべきです。
チームを強くすることは出発点にすぎません。その先にある「場をつくる力」こそが、変化の時代を生き抜くマネージャーに求められる戦略の本質です。
――ありがとうございました。
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。




