「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。戦略とは何か。変化の時代に、企業は何を問い直すべきなのか。本連載では、さまざまな経営や組織の悩みについて坂田氏に話を聞きながら、同書の考え方を現在進行形の課題へと結びつけていく。
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「社内最適化」が30代キャリアの罠になる
――日本企業では「上司に気に入られることが出世の近道」という考え方が根強くあります。この点について、どう見ていますか?
日本のメンバーシップ型の組織では、上司との関係性がキャリアに大きく影響するのは事実です。その意味で、上司との信頼関係を築くこと自体は間違っていません。
問題は、それ“だけ”に最適化してしまうことです。ここでいう最適化とは、「評価されるために、自分の行動をその環境に過度に合わせてしまうこと」です。
社内で評価される行動と、市場で評価される行動は、必ずしも一致しません。
上司の評価を最優先にしていると、社内では順調に見えても、外から見ると「その会社でしか通用しない人材」になっているケースが少なくありません。
例えば、上司の意思決定を先回りして調整することや、社内の空気を読んで動く力は、社内では高く評価されます。
しかしそれは、その組織の文脈の中でしか価値を持たないスキルです。そして厄介なのは、社内で評価されている限り、このズレに気づきにくいことです。
でも、会社がいつまでも存続する保証はありません。事業部門の売却や組織の再編によって、環境が一変することも起こり得ます。そのとき頼れるのは、自分自身の力だけなのです。
社内調整は必要。ただし、それだけでは足りない
――とはいえ、社内政治や根回しを無視するのも現実的ではありませんよね?
その通りです。ここは誤解してほしくないのですが、社内ネットワークを築き、信頼を得ることは非常に重要です。日本企業では、そうした関係性なしに大きな仕事は動きません。「根回し」もまた、重要なビジネス能力の一つです。
特にお伝えしたいのは、「社内評価」と「市場評価」の両方を同時に意識する必要があるということです。
例えば、上司の機嫌を伺うスキルは、環境が変わればそのまま通用するとは限りません。
一方で、複雑な利害関係を調整し、プロジェクトを前に進める力は、どの組織でも通用します。これがポータブルスキル(持ち運び可能なスキル)です。
社内で信頼を築きながら、同時に「自分はこの会社の外でも通用するか」という問いを持ち続ける。この二軸でキャリアを捉えることが、30代のキャリア戦略として重要になります。
「この戦略を、あなたがやるべき理由は何か」
――キャリアを戦略として設計するとき、どのような問いが有効でしょうか?
拙著『戦略のデザイン』では、「この戦略をあなたの会社がやるべき理由は何ですか?」という問いを紹介しています。
キャリアに置き換えると、「今の自分のキャリア戦略を、自分がやるべき理由は何か」という問いになります。
「上司が評価してくれるから」「会社の方針だから」といった理由では、その選択は他人のものです。
自分の強み、経験、価値観に根ざした理由があって初めて、そのキャリアは自分のものになります。
社内の論理だけでキャリアを設計してきた人ほど、この問いに答えられない傾向があります。
答えられないということは、キャリアの主導権が自分にないということです。
30代のうちに、この問いと向き合うことを強くすすめます。
――ありがとうございました。
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。




