「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。戦略とは何か。変化の時代に、企業は何を問い直すべきなのか。本連載では、さまざまな経営や組織の悩みについて坂田氏に話を聞きながら、同書の考え方を現在進行形の課題へと結びつけていく。
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「環境のせい」にする転職が、
2~3年周期で繰り返される理由
――転職市場は活況ですが、「転職しても状況が変わらない」という声も少なくありません。この現象はどのように捉えていますか?
環境や他者を理由に転職した人は、2~3年後に同じ理由で転職を繰り返しているケースが非常に多いです。
「会社のブランド力がないから営業がうまくいかない」
「この上司とはどうしても合わない」
こうした理由で転職した人が、次の職場でも似たような問題に直面するのは、偶然ではありません。
環境は変わっても、自分自身が変わっていなければ、同じパターンは繰り返されます。問題の原因を外に置いたままでは、環境を変えても問題の構造はそのまま残り続けるからです。
意思決定の前提が変わらない限り、キャリアの軌道も変わりません。
日本社会で転職が持つ、見えにくいコスト
――一方で、転職そのものは一般的な選択肢になっています。この点についてはどう考えるべきでしょうか。
転職を否定するつもりはまったくありません。ただ、日本社会における転職のコストは、正確に理解しておく必要があります。
欧米のジョブ型社会では、「何ができるか」「どんな専門性を持つか」が評価の軸になります。そのため、転職してもスキルや実績がそのまま評価されやすい構造です。
一方、日本は依然として村社会的な組織文化が根強く、「どの組織に長く属してきたか」「その中でどういう役割を担ってきたか」が評価に大きく影響します。
――その違いが、転職後の結果にも影響するのでしょうか。
大きく影響します。特に見えにくいのが、「信頼残高(ソーシャルキャピタル)」の消失です。
日本企業では「あの人が言うなら協力しよう」という無形の信頼が、実際の仕事の推進力を支えています。転職とは、この蓄積された信頼を一度手放し、ゼロから積み直すことでもあります。
つまり転職は、単なる環境の変更ではなく、「信頼の再構築フェーズ」に入る選択です。
転職という選択をするなら、このコストを冷静に理解した上で判断することが重要です。
もちろん、日本社会もグローバル化の流れの中で変わりつつあります。
ただ、組織文化の基盤は急には変わりません。この前提を理解せずに転職を繰り返すと、「環境を変えたのに状況が変わらない」という感覚に陥りやすくなります。
「誰の笑顔のためのキャリアか」を問い直す
――では、このような状況から抜け出すためには、どのような視点が必要になるのでしょうか?
重要なのは、「自分のキャリアは、最終的に誰のためのものか」という問いです。
会社のため、上司のため、世間体のため。こうした外側の基準でキャリアを積み上げていると、例えば組織再編があった、上司が異動したなど、その前提が崩れた瞬間に、軸を失います。
自分のキャリアの主語は、自分でなければなりません。何を選び、何を積み上げるかを、自分の意思で決める。その前提がなければ、転職しても昇進しても、同じ問題が繰り返されます。
――それが「キャリアを戦略として捉える」ということですね。
その通りです。拙著『戦略のデザイン』では、「この戦略の先に、誰の笑顔がありますか?」という問いを提示しています。
キャリアにおいても同じです。「誰の笑顔のためのキャリアか」。この問いに自分の言葉で答えられたとき、キャリアは初めて設計図を持った戦略になります。
――ありがとうございました。
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。




