『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社
児童精神科医による大ヒット書籍のコミカライズ版として、くらげバンチ(新潮社)で連載されている(原作/宮口幸治、漫画/鈴木マサカズ)。今回は、第14話『荒井路彦の食卓』から、原作の立命館大学教授で児童精神科医の宮口幸治氏が漫画に描けなかったエピソードを紹介する。
自分のことを「やさしい人間」と答える少年に不安を感じるワケ
今回のマンガでは、放火を行った荒井路彦(仮名)少年のエピソードを扱っています。
放火は、少年による刑法犯に対する比率からすると約0.2%と少ない犯罪ですが、被害が甚大な重大犯になるため、一回の犯行だけでも少年院送致になることも少なくありません。
36名が亡くなった2019年の京都アニメーション放火殺人事件や、26名が亡くなった2021年の北新地ビル放火殺人事件などのように、成人による放火の場合、社会への恨みや復讐といった動機がみられたりします。一方、少年の放火は発達特性、さびしさ、被虐待、遊びや好奇心など、より未熟で内面的な要因が背景にある場合があります。
今回のマンガに出てくる路彦は、厳格な父親から逃げ出したい気持ちと困らせてやりたいといった気持ちから、自宅にボヤを起こそうと火を着けました。それが意図せず隣家に燃え移り、隣家の住民を焼死させてしまいます。
そこには、「この行為がどのような結果をもたらすか」を具体的に想像する力の弱さがありました。認知機能が弱い場合、行為と重大な結果とを結びつけて考えることが難しく、悪意が強くなくても深刻な事件に至ることがあります。
かつて高速道路にかかる跨道橋から道路に向かって自転車を投げ込んだ事件がありましたが、単に遊び心で、それがどんな恐ろしい事故につながるか想像できなかったと当事者の少年も語っていました。
路彦の想像力の弱さは、少年院での集団生活の中でも表れました。自習時間に独り言を続けたり、貧乏ゆすりで大きな音を立てたり、雑誌や新聞を長時間独占したり、洗面台を後ろの人を気にせず使い続けたりと、本人に悪意はなくても、周囲への影響を想像できない行動が重なり、同室の少年たちをいら立たせます。
通常、集団生活では譲り合いを通して他者への配慮を学びますが、場の雰囲気を読むことが苦手な少年にとっては、それ自体が大きな困難となるのです。
さらに六麦を悩ませたのは、路彦が自分のことを「やさしい人間」と答えている点でした。これも少年院ではよく見られる傾向でした。何が困るかというと、自分をいい人間だと思っていたら、自分を変えたいという動機づけが出てこないことです。
非行を行った自分は最低な人間だと思うからこそ更生したい気持ちが生じるのです。では、どうして自分のことが分からないのでしょうか。
本来、更生の出発点は、自分の行為の問題を認識することにあります。しかし、他人の振る舞いを正しく理解する力が弱かったり歪んでいたりすると、「人の振り見て我が振り直せ」というように自分を客観視することができません。
その結果、自らの課題にも気づきにくくなります。こうした認知の弱さや自己理解の難しさこそが、非行少年の背後にある生きづらさの一端を示しているのです。
原作者である宮口幸治は、児童精神科医として、実際に医療少年院の勤務歴があります。その経験から書いた『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)をマンガ化した作品。マンガの続きは「ケーキの切れない非行少年たち」でチェック!
『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社
『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社







