「今度近づいたら警察を呼びますよ」公園で不審者扱いされた少年が“逆恨み”したワケ【マンガ】『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社

児童精神科医による大ヒット書籍のコミカライズ版として、くらげバンチ(新潮社)で連載されている(原作/宮口幸治、漫画/鈴木マサカズ)。今回は、第13話『本当の別れ』から、原作の立命館大学教授で児童精神科医の宮口幸治氏が漫画に描けなかったエピソードを紹介する。

善意のつもりの行動が「不審者」扱い

 今回は、幼女への性加害により少年院に収容されていた出水亮一(仮名)が、出院後に社会復帰を目指すところから始まります。

 再非行防止において最も重要とされるのが「就労」です。安定した仕事に就くことは、生活基盤を整えるだけでなく、自己肯定感や社会的役割の獲得にもつながります。亮一も出院後すぐに就職活動を始めますが『ケーキの切れない非行少年たち』に見られる特性――認知機能の弱さやコミュニケーションの未熟さ――が、ここでも大きな壁となります。

 面接は思うようにいかず、不採用が続きます。さらに厳格な父親からの無言の圧力が亮一のストレスを高め、その状況は、出院時に六麦が抱いた不安を現実のものとして浮かび上がらせます。

 就職が決まらないまま、公園で一人たたずむ亮一。視線の先には、小さな女の子が1人でしゃがんでいました。亮一には、その子が周囲の子どもたちの輪に入れず、孤立しているように見えます。しかし実際には、彼女は母親を待っていただけでした。

 状況を正確に読み取る力が弱い亮一は、自分の主観的な解釈を事実だと思い込んでしまうのです。さらに亮一は、現代社会において高校生くらいの少年が見知らぬ幼女に声をかければ、「不審者」と見なされる可能性があるという社会的文脈を想像できません。このとき亮一にわいせつな意図はなく、ただ「寂しそうに見えた」少女を気遣っただけでした。

 しかし少女の母親からは「今度近づいたら警察を呼ぶ」と強く非難されます。善意のつもりの行動が「不審者」扱いされたことで、亮一の被害感情は一気に高まります。自分は悪意なく行動したのに否定された、という思いが、内側に鬱積していきます。

 こういった構図は、実際の少年院の少年たちにも少なからず見られました。社会の役に立ちたいという思いから、頼まれもしないボランティア活動を始めた少年がいました。

 しかし周囲からは迷惑がられ、恐れられ、その結果、彼は逆恨みし、地域の子どもたちに暴力を振るって再び少年院へ戻ることになったのです。彼もまた、承認されたいという欲求を抱えていたのですが理解されないことで被害感を募らせ、攻撃へと転じたのでした。

 マンガの中で亮一もまた、「不審者」とののしられた怒りと、就職が決まらない焦燥感を抱えきれず、以前公園で出会った幼女にわいせつ行為をしてしまい、再び少年院へ収容されます。初回入院時に亮一を担当していた法務教官は、裏切られた思いと失望に苦しみます。六麦はこう語ります。

「頑張れない少年だからこそ――期待を裏切る少年だからこそ、逆に支援しなくてはいけない」

 この言葉は、努力できる者や更生に成功する者だけを支援するのではなく、「どうしても頑張れない人たち」(※)と社会はどう向き合っていけばいいのかを問いかけます。
※宮口幸治著「どうしても頑張れない人たち」(新潮新書)

 原作者である宮口幸治は、児童精神科医として、実際に医療少年院の勤務歴があります。その経験から書いた『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮新書)をマンガ化した作品。マンガの続きは「ケーキの切れない非行少年たち」でチェック!

『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社
『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社『ケーキの切れない非行少年たち』(c)宮口幸治 鈴木マサカズ/新潮社