つまり、貯蓄は私たちの心の安定剤の役割も果たしているんです。たとえ小さな金額でも、未来に向けて少しずつ積み立てる行動には、大きな意味があるというわけですね。

 結局、人間にとって、富と物質的な対象というのは、安心感、価値、意味を生み出し、最終的に不安を払いのける機能を持つ可能性があるということです。もちろん、貯金ばかりに固執して今を楽しめないのも困りものですが、心のバランスを保つ選択肢として、貯蓄の力をもっと意識してみるのもよさそうです。

 次に「なんとなくお金を使いたいな」と感じたときには、一度立ち止まって、死まで意識しないとしても、「本当に必要か」や「将来の自分のためになるか」を考えてみましょう。冷静な視点が、無駄遣いを防ぎ健全な金銭管理につながります。客観的に考えることが衝動的な欲求を抑えてくれることは、さまざまな脳科学の研究でも示されていることです。

家計への不安が
貧困の悪循環を生み出す

 お金のことで悩んでいる人なら、一度は「もっと貯金しなきゃ」と思ったことがあるはず。でも、なかなかそれが難しいのが現実です。

 シカゴ大学のバートランドらの研究(注3)では、貧困に陥ると「お金の不安」が心の中で大きな負担となり、それが、なんと、脳の働きにまで影響を与えてしまうことがわかってきました。

 家計のやりくりに関する悩み(どの支払いを優先するか、今月をどう乗り切るか)が、まるでWEBブラウザ上に現れるバナー広告のように頭の中に残り続け、注意や記憶の空き容量が削られてしまうのです。

 その結果、先のことをじっくり考える余裕がなくなり、ついつい目先のこと、たとえば、「今すぐ使えるお金」を優先してしまい、将来への貯蓄がおろそかになりがちになる。つまり、「近視眼的な貯蓄」につながるのです。

 さらに、バートランドらの研究では、収入の少ない人たちが銀行口座を持たずに高コストなチェック・キャッシング(=手元にある小切手を現金に換えるサービス)やレンタル購入を利用してしまう現象も取り上げられています。

(注3)Bertrand,M.,Mullainathan,S.,&Shafir,E.(2004).A Behavioral-Economics View of Poverty.The American Economic Review,94(2),419-423.