動物たちの姿は写実的に描かれているというよりも、人間の仕草に似た「らしさ」を抽出し、記号のように単純化された線で表現されています。だからこそ、私たちはそこに「楽しさ」や「躍動感」を自然に感じ取るのだと思います。

 このような表現は、情報をあえて省略することで、かえって伝達力を高めることができるという、日本の表現文化の1つの特徴を示していると言えるでしょう。

「次にどう動くか」を想像させる
『鳥獣戯画』の静止画

『鳥獣戯画』は、単に昔の滑稽な絵ではなく、「少ない線で多くを伝える」という考え方を体現した作品であり、その意味で今日まで語り継がれていると思います。

 また、この絵巻が特別な理由はもう1つあります。『鳥獣戯画』の線は、輪郭をなぞるだけでなく“運動の予感”を残します。跳ねる前の沈み、向き直る瞬間のねじれ、逃げる背の傾き――いずれも「次にどう動くか」を想像させる角度と長さです。

 情報は少ないのに物語が湧き上がるのは、線が「直前」と「直後」の典型(プロトタイプ)を同時に呼び出すからです。静止画なのに時間を感じるのは、私たちの側が“間”を補完する読解装置をすでに持っているからなのです。

 線を使ってプロトタイプを利用することで、「動き」や「気持ち」を簡潔に伝えるという発想は、現代の漫画やアニメーションと通じる部分が多く、『鳥獣戯画』が「日本最古の漫画」と称される理由がよくわかります。

「デフォルメ」だけでは
説明できない漫画の表現手法

 漫画のキャラクターの絵は、よく「デフォルメされている」と言われます。たとえば目が大きく描かれていたり、頭と体のバランスが現実とは違っていたりします。たしかに、普通の人間と比べると、形が変えられているのは明らかです。

 でも、ここで一度立ち止まって考えてみたいのです。本当に、漫画の絵はただ「形をくずしただけ」と言えるのでしょうか?