「デフォルメ」という言葉は、もともとフランス語で「形を変える」という意味です。そして、必要に応じて形をくずし、本質を強調するという意味で使われることもあります。そう考えると、漫画の絵はたしかにデフォルメと言える部分もあります。

 しかし一方で、漫画の絵をただ「デフォルメされたもの」と考えるだけでは、その本質を見逃してしまうかもしれません。むしろ、私たちの「脳の中にあるイメージ」、つまり「プロトタイプ」に働きかけているからこそ、漫画の絵はわかりやすく、伝わりやすいのではないか――そう考えることもできるのです。

 たとえば漫画では、普通に人を描くよりも、顔が大きめに描かれることがあります。4頭身や2頭身といったバランスでも、「変だ」とはあまり感じません。

 これは、私たちが人を見るとき、全身よりも顔に注目していることと関係しているかもしれません。つまり、脳の中では「人間とはこういうものだ」というプロトタイプが、実際の姿とは少し違う形でできているのです。

 そのため、たとえ頭が大きく描かれていても、「これは人間だ」と自然に受け入れることができます。漫画の絵が伝わりやすいのは、単に形をくずしているからではなく、私たちがもともと持っているイメージ(プロトタイプ)とうまく結びついているからではないでしょうか。

劇画のようなリアルな絵にはない
省略された漫画的な絵の魅力

 また、「驚いたときの顔」を表すために、漫画で目を「点」にして描くことがあります。もちろん現実の人間の目が本当に点になることはありません。でも、その絵を見たとき、多くの人が「驚いている」と感じ取ります。

 これは、私たちの頭の中に「驚いた顔はこうだ」というイメージがあり、その特徴をうまく捉えているからこそ伝わるのです。

 また、「デフォルメ」だけではないと考えるもう1つの理由は、「形をくずさない」静かな場面でプロトタイプを捉えるような表現を見ることがあるからです。