幼い頃から「生」と「死」を静かに見つめ、そのありようを考えてきた、医師で作家の久坂部羊氏。水木しげる氏の作品に登場する“人生は一冊の本”という比喩を手がかりに、限られた時間の中で、私たちは何を味わい、どう生きるのかを考察する。※本稿は、久坂部羊『死が怖い人へ』(SBクリエイティブ)の一部を抜粋・編集したものです。

水木しげる氏は
「生」と「死」をどう描く?

漫画家の水木しげる氏漫画家の水木しげる氏 Photo:SANKEI

 子どものころ、私が父に「死んだらどうなるの」と聞くと、父はこう答えた。

――生まれる前と同じになるんや。

 なるほどと思ったが、具体的にはよくわからなかった。

「生」と「死」がどういう関係にあるのか、私が敬愛する漫画家の水木しげる氏が、作品の中で明快に説明している。

「墓場鬼太郎 怪奇一番勝負」に登場するエピソード(「ゲゲゲの鬼太郎夜話編」にも描かれる)だが、アメリカ帰りの殺し屋と売れない漫画家が、鬼太郎を亡き者にしようとして、逆に完全な暗闇の世界に迷い込まされる。そこは真の闇で、2人がさまよっていると、前から胴体の上下に手足がついた首なしの怪人が現れて、出口へ案内するという。

 途中で怪人が2人にこう言う。

『人生とは一冊の漫画の本のようなものだ

長い長い静かな闇夜の世界が

何万年何億年とつづいていると考えたまえ

その中に一冊の本が落ちている

君達はそれを読む

そして喜んだりかなしんだりする

そして読み終える

そしてまた静かな黒い世界が何十億年とつづく

生きている間というのは

その漫画を読んでいるわずかの間だ』