将来的に5人に1人がなると言われている「認知症」。運や遺伝によってなると考える人も多いが、じつは意外な習慣によって、そのリスクを高めてしまうことがわかった。その影響は20代から始まっているとも言う。
その事実を紹介したのが、オックスフォード大学の研究員として世界的難病の治療法の発見に貢献し、現在は医師としても活躍する脳と糖の専門家である下村健寿氏の著書『糖毒脳ーーいつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』だ。認知機能を崩壊させる「黒幕」の正体や、そのメカニズム、そして脳を守るための習慣を紹介した同書から、一部を抜粋・編集し紹介しよう。(構成/ダイヤモンド社・石井一穂)

【だから人体は不思議だ…】正体は「はがれたテープ」? 脳の神経細胞を死に至らしめる「タウ」とは何かPhoto: Adobe Stock

脳の中で起きている「もう一つの異変」

 アルツハイマー病の原因としてよく知られているのが「アミロイドβ」という物質だ。

 しかし、脳の中で起きている異変は、それだけではない。

 記憶が失われる。
 判断力が低下する。
 やがて神経細胞そのものが死んでいく。

 こうした変化の背景には、もう一つの「脳のゴミ」の存在がある。

 元オックスフォード大の医学研究者であり、医師としても活躍する「糖と脳」の専門家である下村健寿氏は、著書『糖毒脳』で次のように説明している。

アルツハイマー病で脳に溜まるゴミはアミロイドβだけではありません。細胞の外に溜まるゴミがアミロイドβだとすれば、細胞の中に溜まるゴミが「タウ」です。
――『糖毒脳』より引用

 この「タウ」とは、一体どのようなものなのか。

アンテナの構造を固定する「テープ」のようなもの

 タウは、もともと脳にとって重要な役割を担っている物質だ。

 その役割について、下村氏は同書でこう解説している。

脳神経細胞には、たくさんの情報を受信するための多数の受信用アンテナ(樹状突起)と、受信した情報を統合して送り出す一本の送信用のアンテナ(軸索)があります。それぞれ、情報の送受信をする上でとても大事な器官です。

樹状突起や軸索はアンテナのように細長い構造をしていますが、その中には「微小管」という、細胞の骨格を作り、形を保つ管状の構造があります。微小管は送受信アンテナの骨格となるだけでなく、細胞本体とアンテナの間で栄養や情報伝達物質を運ぶときの「レール」のような役割も果たしています。

微小管は小さなブロックのような物質を積み重ねてできており、これらのブロックをしっかりとつなぎとめる「テープ」の役割を果たしているのが「タウ」です。
――『糖毒脳』より引用

 つまりタウは、神経細胞の構造を支えるために欠かせない役割を果たしている。

 しかし、このタウが問題を引き起こすことがある。

ですがタウは、年を取ったり、先ほどのアミロイドβによる攻撃にさらされたりすると剥がれてしまいます。使用して何年も経ったセロハンテープが乾いてボロボロになって剥がれる。まさにそんな感じです。
――『糖毒脳』より引用

 長年使ったテープが、乾いて剥がれてしまう。
 まさにそれと同じことが、脳の中で起きている。

 当然、タウという大切なテープを失った微小管はバラバラになってしまう。

 その結果、神経細胞は大切なアンテナを支える骨格を失い、栄養も運べなくなり、やがて死んでしまう。 

「はがれたテープ」が細胞を壊していく

 さらに問題なのは、ここで終わらないことだ。

タウはアミロイドβと異なり、主に細胞の中に溜まるゴミですが、溜まりすぎて細胞が死んでしまうと、細胞の外に吐き出されます。
すると放出されたタウは、周囲に存在する健康な脳神経細胞にまるでウイルスのように次々と伝染していき、死に至らしめます。

――『糖毒脳』より引用

 まるで連鎖するように、脳の機能が失われていく。

 単なる物忘れのように感じる病気の裏には、脳の構造そのものの崩壊がある。

 人体は精巧にできている。

 だからこそ、その仕組みが崩れたときの影響は、想像以上に大きいのかもしれない。

(本稿は、『糖毒脳ーーいつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』の内容を引用して作成した記事です)

下村健寿(しもむら・けんじゅ)
福島県立医科大学卒。同大副理事、医学部病態制御薬理医学講座主任教授。現役内科医でもある基礎医学研究者。日本糖尿病学会東北支部学術評議員。日本内科学会認定内科医。医学博士。群馬県前橋市出身。2004年、日本で働いていた大学医学部から、英国オックスフォード大学への就職を試み、執念の就職活動を実らせて成功。オックスフォード大学正式研究員として、世界を代表する生理学者フランセス・アッシュクロフト教授の薫陶を8年間受けた。その間、新生児糖尿病治療法の発見という世界的快挙に貢献。新生児糖尿病の最重症型であるDEND症候群の脳神経症状治療有効例を報告した論文は米国神経学会誌「Neurology」よりEditorial論文に選出された。貢献を認められて2006年と2010年にオックスフォード大学メリット賞を2度受賞。日本帰国後は、新生児糖尿病に加えて肥満・2型糖尿病などの生活習慣病について、インスリン分泌や脳機能の観点から研究している。