ファクトリーオートメーション(FA)やモビリティ(自動車などの移動手段)は、スマートフォンがOSの更新によって機能向上するように、ソフトウェアやデータ中心の産業に移行しつつある。

PwC Intelligenceの新刊書籍『産業融合 インテリジェンスから解く分断・統合・再興』から、今回は『9章 産業用ロボットから展望するフィジカルAIの未来』『10章 中国のモビリティの進化・発展からうかがえる新しい価値』より抜粋し、変貌していくFA、モビリティ産業を展望する。(全3回中の第3回)

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付加価値はソフトとデータに載る構造へ

 産業用ロボットの世界で現在起きている最大の変化は、価値の中心が「金属の本体(ハード)」から「賢い頭脳(ソフトウェア)」へ移っていることだ。この点は、スマートフォンを思い浮かべればわかりやすい。スマホの便利さは、端末そのものより、OSやアプリの更新で機能が増え、使い勝手がよくなることにある。

 ロボットも同じで、ネットにつながり、制御ソフトが常時アップデートされれば、機械を買い替えなくても性能を維持・向上できるようになっている。作業内容の設定をソフト側で持てば、メーカーが違うロボットに置き換えても、同じ動きを再現できる。ハードは「プラットフォーム上で動く部品」、付加価値はソフトとデータに載る構造へと変化を遂げている。

 こうしたソフトウェアとデータを前提に自律的に学習・判断し、現実世界で腕や脚を動かすロボット群は、単なる産業用機械ではなく、「フィジカルAI」と呼ばれる新しい層として立ち上がりつつある。

 ロボットの「スマホ化」を後押ししているのがAIだ。従来のロボットは、人が細かく動作を指示する「事前決め打ち型」だった。しかし、AIを掲載することで周囲を学習し、自ら判断・最適化する自律性が生まれる。学習には大量の現場データが不可欠で、モデルは高速に改良される。

 高速通信やクラウド更新(Over-The-Air:OTA)が当たり前になると、価値は本体より「AIモデルとデータ」に集中する。後述する自動車業界で語られる「ソフトウェアで車の機能を継続的に追加・改良する」SDV(Software‑defined Vehicle)が先行事例だ。FA・産業用ロボットでも同じ潮流が進み、ヒューマノイド、モバイルマニピュレーター、協働ロボットといった新カテゴリーが伸び始めている。

 ロボット技術の変化はビジネスのあり方も変化させている。これまでの「売って終わり(モノ売り)」から、販売後もアップデートや最適化、遠隔保守、機能追加で継続的に収益を得る「コト売り」へという流れだ。

 スマホが出荷後のアプリやサブスクで収益を上げるのと同じ構造である。ロボット分野でも、購入せずに「使った分だけ」従量課金するRaaS(Robotics as a Service)が米中で普及しつつある。垂直統合で用途ごとにつくり込むより、ハード、ソフト、サービスをモジュール化し、最適な組み合わせで提供する「水平分業」が広がる。

 このとき強くなるのは、OSやアプリ、データが集まる「プラットフォーム」を握る企業だ。工場でロボットが動くほど、センサー・動作のデータが大量に生まれる。クラウドに蓄積されたデータでAIが賢くなり、新しい付加価値サービスが生まれる。利用者が多いほど学習が進み、さらによいサービスが提供できる「勝者総取り」の力学が働く。

 それだけではない。工場のIT(クラウド上での分析)とOT(現場制御)は密接に結びついており、一度システムインテグレーションを組むと、他のプラットフォームへの切り替えコストが非常に高くつくことになる。

 PLC(プログラマブル・ロジック・コントローラー)と呼ばれる現場司令塔とクラウド側の分析が同一プラットフォームに集約されるほど、全データがそこに集まり、プラットフォームの価値は加速度的に高まる。

 こうしたプラットフォーム層では、クラウドやOS、AIモデルを握る米国企業がすでに強い影響力を持ちつつある。また、中国はサプライチェーンと量産を武器に追い上げている。

従来メーカーは「ハード部品のサプライヤー」に!?

 競争が激化する中で日本企業はどこにポジションをとるのか?従来のロボットメーカーは「一気通貫の提供者」から「プラットフォーム上で動くハード部品のサプライヤー」へ立場が変化するリスクを抱える。

 日本企業が価格決定力を失えば収益性は落ち、低価格な中国勢に置き換えられやすくなる。日本企業は要素技術(減速機、サーボ、モーション制御)や過酷な環境への適応、長年の顧客現場で培った経験則という武器を持つ一方で、ソフトとデータが価値の中心になる世界では、プラットフォーム戦略を欠くと主導権を失いやすい。

 ここでの要点は3つである。第1に、「スマホ化」を前提に、機能はソフトで増やし、本体は長寿命で使い続ける設計に切り替えること。第2に、「サブスク/RaaS」など継続課金モデルを早期に実装し、稼働率、良品率、ダウンタイム、保守応答時間など現場KPIに連動した価格設計を行うこと。第3に、「プラットフォームのどこを握るか」を決めることだ。

 日本企業にとっては、強みである現場知と要素技術をソフトとデータに変換し、「どの現場のどの工程」という具体的ユースケースを起点に、特定工程・業種でのドメイン特化型プラットフォームやRaaSを早く構築することが、生き残りのカギになる。

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