こりゃホレるわ…若手社員が絶対服従を誓った「社長のひと言」【マンガ】『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営を解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第60回では上場企業の信頼回復戦略について解説する。

現場の社員を「絶対について行く」と言わせた、社長のひと言

 自ら手掛けたアパレル企業・T-BOXを上場させるも、今度はパブリックカンパニーとしての洗礼を受け続ける主人公・花岡拳。優秀な中途社員の採用を進めるが、今度は古参で、自社株式を保有する役員陣が、それぞれの思惑を胸に、退任や反逆を画策し始める。

 役員の大林隆二は、同じく古参メンバーで経理を担当する菅原雅弘に「共闘」を提案する。大林は生産部門を統括する古参の片岩八重子がライバル企業・一ツ橋商事の井川泰子と組んでT-BOXの買収を計画していることを把握しており、その計画に菅原とともに入ることを持ちかけたのだった。

 そんな時、T-BOXに花岡への取材依頼が入る。大林たちは週刊誌にスキャンダルを報じられたことを逆手にとって、あえてメディアへ露出するという「逆転劇」を提案するが、花岡は却下する。そして「こういう時こそいいものを作るんだ」と社内に説く。

「嘘をつかず誠実に商売の王道を歩く。それがお客様の信頼回復につながるんだ」

SNS全盛の時代だからこそ、本当に“効く”信頼回復手段

漫画マネーの拳 7巻P141『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

 役員がスキャンダルという「物語」でブランドを毀損されたことに対して、別の「物語」で打ち返す――大林たちの提案は、ある意味ではSNS全盛の令和的なPR施策とも言える。ネガティブな話題が出たなら、より強いポジティブな話題で上書きして喧伝すればいいという考え方だ。

 だが花岡は、その道を選ばない。嘘をつかず、誠実に商売の王道を歩く。それこそが信頼回復につながると言い切る。

 上場企業は説明責任を負うが、たとえ説明したところで、それだけでは傷ついた信頼が戻るとは言えないからだ。市場も顧客も、結局は「この会社は何を語ったか」だけでなく、「実際に何をしたか」を見るということだ。

 米国の大手PRエージェンシー・エデルマンが2025年に出したブランドの信頼に関するレポートによると、「信頼」というのはきれいなメッセージや理念の表明そのものではなく、行動の一貫性や、顧客にとって意味のある価値の提供によって積み上がると整理されている。

 つまり、物語があふれる時代だからこそ、最後に効くのは物語の巧みさではなく、その裏側にある実態ということだ。

 花岡の判断は、ある意味では非常に「古臭い」ものだ。だが、悪評が立ったときほど、奇策より王道が強い。

 露出を増やして空気を変えるより、商品と商売を立て直し、顧客の信頼を1つずつ取り戻す。その地味な積み重ねのほうが、結局は会社を長く支えると考えているのだろう。信頼回復に裏技はない。結局は、いいものを作るしかないのである。

「カッコいい社長!」「あの人なら間違いないよ!」「なにがあっても絶対ついてくよ!」

 花岡の発言に感動し、「絶対的忠誠と服従」を誓う若手社員たち。そんな様子を見て、菅原もある決意をするのだった。

漫画マネーの拳 7巻P142『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
漫画マネーの拳 7巻P143『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク