金融エリートが「スマホで名簿を盗撮」幼稚な不祥事を起こすメカニズムとは?(写真はイメージです) Photo:PIXTA
なぜ最近、保険会社の不祥事が後を絶たないのでしょうか?今回は、生保や損保のエリート社員が出向先から情報を大量に盗んでいた事件のメカニズムをひも解いていきます。最初の3段落だけちょっと小難しいですが、あとは大丈夫。新社会人も若手も中堅も、まずは読んでみてください。(コラムニスト 坪井賢一)
なぜ大手生保や損保の社員は
銀行から顧客情報を盗んでいたのか
経済学の「逆選択(アドバース・セレクション)」とは、情報の非対称性(売り手と買い手で情報に格差)が原因で、質の悪い商品やハイリスクな人が市場に残り、優良品(人)が排除されてしまう「市場の失敗」の例です。
情報の非対称性は、取引が始まる前に供給側は商品の質を熟知しているが、需要側にはわからない場合に顕在化します。この典型的な例が、生命保険です。生命保険の市場は、経済学では「逆選択」の例として必ず取り上げられます。
顧客の健康状態を保険会社が見抜けない場合、病気のリスクが高い人ほど保険に入り、健康な人は保険料が高いと感じて加入しなくなります。こうして生命保険の市場でも高リスク者だけが集まってしまい、「逆選択」が起こります。
生命保険会社はこの「逆選択」を回避するために、健康状態の告知義務など、さまざまな施策を打っています。そうした中で近年、次々と明るみに出たのが、「銀行窓販」のために生保や損保から出向していた社員が、出向先から顧客情報を窃取して、さらに一部では社内共有までしていた事件でした。
相対的にリスクが低いと思われる大手銀行など代理店の顧客リストを、無断で持ち出した件数は膨大なものでした(以下は各社発表や報道から筆者まとめ、4月中旬時点、順不同)。
・第一ライフグループ:1155件
・住友生命:780件
・日本生命:約600件
・ニッセイ・ウェルス生命:943件
・明治安田生命:39件
・T&Dグループ(大同生命など):141件
・メットライフ生命:数千件規模
・プルデンシャルジブラルタファイナンシャル生命保険:379件
・朝日生命:5万9000件(詳細は後述)
社名の横の数字が、各社が出向先の銀行などから顧客に関する内部情報を持ち出していた件数です。ただし、「件」の定義はハッキリしていません。期間は2024年から2年間。各社の経営者は一応、責任を取りましたが、だいたい月額報酬から少し減額した程度です。
どうして緩い処分かというと、「組織的な犯行ではなかった」「盗んだ情報を具体的な営業には使用していない」などと各社同じように説明しています。また、金融庁による行政処分待ちということもあるでしょう。
この事件は言ってしまえば、低レベルで幼稚なものです。金融エリートを自認しているであろう人たちが、スマホで名簿を盗撮していたとは。経営陣は、「組織的にやったわけではないからワシラ、責任はないぞ」という態度。まったくもう……次々と明るみになるので、新聞を読みながら呆れ返りました。







