保険の銀行窓販は
金融「自由化」の象徴だったが…

 銀行窓販とは、銀行窓口における保険商品販売のことで、金融自由化の一環として2001年から始まりました。ジャンルを横断して金融サービスを提供する規制緩和、市場経済化政策です。が、垣根を越える自由化とはいうものの、実態は生保の出向社員が売っていました。

 先述の通り盗まれた情報は膨大でしたが、銀行側は猛烈に抗議しているわけでもなく、軒先を貸していただけなので問題視していないようにすらみえます。窓口を貸しているだけで大きな収益を得ていたとすれば、まさか窃取を黙認していたわけではないでしょうが、関係が親しすぎて全く監視していなかったのでしょう。

 この事件は、金融自由化が招いた非常にヤバい事態です。ただし規制強化して非効率な市場を作ってしまうと、それは「政府の失敗」になりますから、なかなか資本主義市場経済とはやっかいなシステムです。

保険会社にとっては
優良な買い手の情報収集が重要

 経済学の標準的な教科書として有名な『マンキュー経済学Iミクロ編』(注1)を読んで確かめておきましょう。こう書かれています。

「市場がアドバース・コレクション(逆選択)に苦しんでいるときは、見えざる手の魔法の力は必ずしも働かない。(略)保険市場では、リスクの低い人たちは、提供される保険プランが自分たちの真の特性を反映したものでないために、保険に加入しないかもしれない」。

 つまり市場メカニズムは働かないわけで、保険会社にとっては、優良な買い手の情報を収集することが非常に重要になるわけです。

 銀行への出向者がその銀行の顧客に関係する情報を入手できれば、営業効率の向上が見込めるかもしれません。これは「逆選択の回避」策としては有力なもので、顧客情報を窃取する強い動機となります。

 李下に冠を正さず。実際に個人情報を悪用していなかったとしても、そのような疑念を招きかねない「環境」と「構造」があったわけです。