スタートアップが成功できるか、失敗して消えてしまうか? それを決めるのは、Product Market Fit(PMF:プロダクト・マーケット・フィット/市場で顧客に愛される製品・サービスを作ること)を達成できるかどうかにかかっている。増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2』(田所雅之著、ダイヤモンド社)は、起業家の8割が読み、5割が実践する起業本のベストセラー『起業の科学』を9年ぶりに大改訂した最新版。本連載では同書から抜粋して、スタートアップの成長を加速するポイントについて、わかりやすくお伝えしていきます。

起業家がアンラーンすべき、ゲームの8つの常識Photo: Adobe Stock

スタートアップは極端に直感に反する

 すでに述べたように、スタートアップの世界では、あなたが一般企業、学校、受験などで慣れ親しんできたゲームのルールの多くは通用しない。

 Y Combinator共同創業者のポール・グレアム氏が「スタートアップは極端に直感に反する」と指摘している。このようにスタートアップの世界で、従来の常識や思考方法を無自覚に踏襲することは危険であり、むしろ「アンラーンする(念頭から払いのける)」必要があるのだ。

 忘れ去るべき8つの常識を挙げてみよう。

①100点満点の解答用紙に正しい答えを
埋めようとするゲームを忘れる

 学校でも企業でも、いかにミスをしないかが美徳とされてきた。つまり、100点満点の解答用紙に模範解答を正確に書いた人が優秀とされてきたわけだ。

 しかしスタートアップの世界では解答用紙や模範解答があると思うこと自体が大きな間違いである。新しい問題の設定とそれに対するユニークな解答方法を自ら作るのがスタートアップの目的だ。

②上司にうまく報告するゲームを忘れる

 一般企業では、自分の評価は上司へのレポーティングの仕方次第で変わってしまう。だから少しでも自分を良く見せようと、多くのリソースを報告書作りなどに費やす。でもそれがスタートアップの世界では全く意味のないことは自明だろう。

③多くの人から好かれようとするゲームを忘れる

 人に好かれたい気持ちは誰にもある。イベントに積極的に参加してSNSの友達を増やす時期があったり、自分を少しでも良く見せようと話を盛ってしまったりすることもあるだろう。

 でも、そうした努力はスタートアップの直接的な成功要因にはなり得ない。むしろ自分を良く見せることや「認められたい」という承認欲求は捨てよう

 あなたがこれからやろうとしていることが、今までの常識や手法を覆すものである場合、それは一部の人にしか理解されないだろうし、理解できない人は「こんなプロダクトが通用するはずがない」とSNSなどに書き込むだろう。それでいいのだ。 

 スタートアップは、一部の人に熱狂的に愛されるプロダクトを作ることに専念することこそが重要なのだから。

④少しずつ改善するゲームを忘れる

 PDCAを回し続けることは、どんなビジネスでも基本だ。

 しかし、限りある資金と時間の下で結果を出すことを求められるスタートアップの場合、細かい改善をコツコツと積み重ねるよりも、一気にピボットしたほうがよいケースも多い。機能をごっそりそぎ落としたり、市場を変えてみたりといった具合だ。

 コツコツと努力を積み重ねることが必要になるのは、PMFへの勝ち筋が見えた後だ。プロダクトへのユーザーの定着率を改善するためにユーザーテストを行ってUXを改善したり、ブログやSNSを活用したコンテンツマーケティングなどを行い、顧客接点を少しずつ増やしたりすることが必要になる。

⑤多数の競争相手の中で
一番になるゲームを忘れる

 100人の同期の中で出世競争に勝つとか、大学入学共通テストで全国上位に入るといった成功体験がある人の中には、強いライバルがいたり、激しい競争環境があればあるほどモチベーションが上がるという人が多い。

 しかし、スタートアップは大勢と同時に戦うゲームではない。競争相手が少ない領域を攻めて、そのニッチな市場を席巻することを優先すべきだ。

 まず、限定市場を独占してから周辺市場に攻め込むことがスタートアップの王道。リソースがないスタートアップには大勢と戦っている余裕はない。

⑥予算消化のゲームを忘れる

 スタートアップの経営とは限りある資金を消費しながら、墜落する前になんとか急浮上を試みるアクロバット飛行のようなものである。大企業のように予算がついたら全部使い切ろうとする発想は、真っ先に捨てるべきだ。

 当たり前のことだが、資金調達でまとまったお金が入ると気が大きくなって浪費や無駄な投資に走る起業家は少なくない。実際、数多くのスタートアップが不当な資金の使い込みで投資家から不信を買ってしまい、資金を引き揚げられて失敗している。

⑦最初から広い市場を狙うゲームを忘れる

 広い市場で顧客獲得を目指すのは、大企業の採用する施策である。Paypal共同創業者のピーター・ティール氏も同様のことを述べているが、スタートアップで成功率を上げるには、まず小さな市場を独占するという方法が定石だ。

 Amazonも当初の3年間は書籍だけを扱った。その市場で圧倒的なシェアを獲得した後、ビデオやDVDなどの周辺市場に進出している。

 顧客の絶対量が重要なのではなく、限定市場において、競合に対して圧倒的なシェアを取ることが重要である。

⑧うまくいかなかったことを
誰かのせいにするゲームを忘れる

 仕事でミスが起きたとき、大企業では犯人探しに躍起になる。レポーティングラインが決まっている大企業の場合は、責任の所在を明確にすることが社員の管理上、必要悪なのかもしれない。スタートアップでも責任の所在を明らかにする必要はある。

 しかし、そこにこだわり、誰(Who)が失敗したのかばかりを気にしていると、失敗を恐れる企業文化ができてしまう。

 本当に大事なのは誰(Who)がではなく、なぜ失敗したのか(Why)だ。

 スタートアップは、“誰”ではなく“なぜ”失敗したのかを徹底的に問い続けて、組織全体で学びを深める必要がある

(本稿は増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2の一部を抜粋・編集したものです)

田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ユニコーンファーム 代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップの3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動した。
日本に帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップ約1500社の評価を行ってきた。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。
2017年、新たにスタートアップの支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役社長に就任。その経験を生かして作成したスライド集『スタートアップサイエンス2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』『「起業参謀」の戦略書』(ダイヤモンド社)など。