スタートアップが成功できるか、失敗して消えてしまうか? それを決めるのは、Product Market Fit(PMF:プロダクト・マーケット・フィット/市場で顧客に愛される製品・サービスを作ること)を達成できるかどうかにかかっている。『増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2』(田所雅之著、ダイヤモンド社)は、起業家の8割が読み、5割が実践する起業本のベストセラー『起業の科学』を9年ぶりに大改訂した最新版。本連載では同書から抜粋して、スタートアップの成長を加速するポイントについて、わかりやすくお伝えしていきます。
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創業者の原体験を明確にせよ
月間アクティブユーザー数約5,000万人を誇り2021年に上場を果たした語学学習のアプリを提供するDuolingo(デュオリンゴ)。
創業者のルイス・フォン・アーン氏はグアテマラの首都グアテマラシティで生まれ育った(母国語はスペイン語)。母親が自分の収入のほとんどを彼の教育に費やし、裕福な地区の良い学校に通わせてくれた。
人間の社会的流動性は、生まれた境遇に依存するという事実は常に彼を悩ませていた。
また、アメリカの大学進学のためにTOEFLテストを受ける必要があったが、グアテマラでは満席だったため、エルサルバドルまで飛行機で移動して受験しなければならなかった。
この費用は約1,000ドルに及んだ。
グアテマラでの教育格差とTOEFL受験の困難を直接経験した彼の教育の不平等を解決したいという強い動機により、Duolingoは初学者に寄り添ったUXを磨き込み、成功したのだ。
Zoom創業者のエリック・ヤン(袁征)氏は中国山東省泰安市に生まれた。
父親は鉱山技師で、決して裕福とは言えない家庭で育った。大学1年生のときにガールフレンド(現在の妻)に会うために10時間かけて電車に乗るたびに、「旅をしないで彼女を訪問する方法」を想像するようになったのだ。
「私が最初にZoomを思い描いたのは、そのときだった。その白昼夢がZoomの基礎となった」と語っている。
“Your story is your strategy”
スタートアップの成功確率は極めて低い。十中八九は失敗に終わる厳しい現実の中で、最後まで諦めずに挑戦し続けるためには、創業者自身の強い原体験と揺るぎない信念が不可欠となる。
アメリカの著名投資家ベン・ホロウィッツ氏が述べた「Your story is your strategy.(あなた自身のストーリーがあなたの戦略になる)」という言葉は、本質を捉えている。
つまり、ヒト・モノ・カネといったあらゆるリソースが制約されるスタートアップにおいて、創業者の個人的な体験とそこから生まれるストーリーこそが、最も強力で持続可能な戦略の基盤となるのだ。
特に生成AI時代の到来により、プロダクトの模倣は従来以上に容易になった。
だからこそ創業者自身の生きた体験に根ざした事業の意味性や独自性は、むしろ希少価値を増している。
技術は複製できても、個人の人生経験から生まれた洞察と情熱は決して真似できない真の差別化要因となるのである。
(本稿は『増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2』の一部を抜粋・編集したものです)
株式会社ユニコーンファーム 代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップの3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動した。
日本に帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップ約1500社の評価を行ってきた。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。
2017年、新たにスタートアップの支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役社長に就任。その経験を生かして作成したスライド集『スタートアップサイエンス2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』『「起業参謀」の戦略書』(ダイヤモンド社)など。




