7月10日夕方、日中関係学会(会長:宮本雄二元駐中国大使)と華人教授会議(代表:杜進拓殖大学教授)の共催により、来日中の馬立誠・元人民日報論説委員を招いて、東京神田にある学士会館でシンポジウムを行った。馬氏が「現代中国の社会思潮」という演題の基調講演を行ったあと、私はコメンテーターとして、その基調講演に対してコメントを発表した。その後は、杜進代表の司会により、パネル討論が行われた。パネラーは、馬氏本人、朱建栄・東洋学園大学教授、加藤青延・NHK解説主幹だった。

反日ムードを批判した論文

 ところで、ここに馬氏を取り上げて、果たしてどれぐらいの日本人読者がすぐにピンと来るのか、あまり自信はない。しかし、2002年に発表された彼の「対日関係の新思考-中日民間の憂い」という論文は、多くの日本人の記憶のどこかに残っているかもしれない。

 当時、中国共産党16回大会で胡錦濤新指導陣が選出されたばかりの時期だった。これからの中国はどんな路線を歩むのか、政治改革には果たして踏み切るのか、さらに日本サイドから見れば、対日路線が変わるのか、関心の尽きぬ問題はいくらでもあった。その中国に世界中から関心のまなざしが注がれていた。

 そんななかで、中国共産党中央委員会機関紙・人民日報の編集主幹(肩書きは当時のまま)、著名な評論家馬氏が02年12月に隔月誌『戦略と管理』に「対日関係の新しい思考」(以下、馬論文と略する)という論文を発表した。同論文は中国に現れた極端な反日ムードを厳しく批判し、中日関係が一種の不正常な状態にあることを嘆いている。ODAに対する明快な評価、対日関係の重視、中国国内に見られる狭隘な民族主義と愛国主義への痛烈な批判……、政治記者の眼光と問題意識が浮き彫りにされている。

 馬論文が掲載されると、予想通りの大きな話題を呼んだ。日本のメディアや関係者が一様に喝采を送るが、中国ではむしろ馬論文に対する批判が大規模に巻き起こった。馬論文を一番早く掲載したのは、いまや休刊になった時事通信社の週刊誌「世界週報」だった。私はその仕掛け人であった。論文掲載後、北京の日本大使館関係者も情報収集に動き、時事通信社の北京駐在員に馬論文の入手ルートを探ったりしていた。それを知った私はいっそのこと「世界週報」の誌面を借りて、情報入手ルートを公開できる範囲内で公表した。今回は、ダイヤモンド・オンラインの読者のために、この一部始終をここでかいつまんで再報告しよう。