講演のため、上海に来ている。日本を出る前の東京は寒かった。犬を散歩に連れて出ていた時、この冬、初めてマフラーを首に巻き、手袋もはめた。大陸気候の上海もきっと同じく寒いだろうと思いこみ、コートを着て、上海行きの機内に乗り込んだ。

 しかし、上海に着いたら、天気こそ霧だったが、案外と暖かかった。春が近づいてきた、と意識し、やはり春節が過ぎたのだと、旧暦と季節の関係の深さを改めて思った。

喜ばれる雨は降るべき
タイミングを知っている

 今回の講演先は日本の地銀ではユニークさで知られる大垣共立銀行だ。同行が上海駐在員事務所を開設して10周年を迎えた記念のイベントに招かれ、講演を依頼されたのだ。

 2006年、上海で大垣共立銀行をはじめ、日本の地銀8行が共同主催の形で、上海でふるさと商談会を開き、日本の地方企業を中国ビジネスの現場に案内した。当時、江蘇省鎮江にある日系企業の現場業務に携わっていた私も、関係者たちとともにこの商談会に出た。そこで大垣共立銀行上海駐在員事務所の関係者と知り合った。それが私を今回の講演の講師にしたきっかけではないかと思う。

 他のメディアに、毎週、故事成語などをキーワードにして書き続ける私のコラムがある。時々、季節の話題も取り上げる。先週は、唐の名詩人である杜甫が書いた「春夜喜雨」という詩にある「潤物細無声」と取り上げた。

 杜甫の詩の一部は「好雨知時節、当春乃発生。随風潜入夜、潤物細無声」となっている。つまり喜ばれる雨はその降るべきタイミングを知っている。春になると、自然に降りはじめ、世の中の植物たちがこれで芽生える。春風に吹かれるまま、雨は穏やかに夜中まで降り続き、植物を細やかに音も立てず潤(うるお)してゆく、という。

 春関連の表現になると、「春風化雨」という中国語の表現が大好きだ。おだやかな春風が、草や木など植物の生長に適した、ほどよくしめった状態へ化していく。こうした環境の中で植物たちが気持ちよく成長していく。