GPU22万基のAI基地を運営!
超大型ロケットで“宇宙の流通”も独占

 もう一つの注目点が、xAIが運営するAIスーパーコンピューター「コロッサス 1」だ。22万基超のエヌビディア製GPUで動作する巨大な計算インフラで、当初は対話型AI「グロック」の開発用だったが、現在は外部企業向けのAI計算インフラ事業へも拡大しているという。

「象徴的なのがアンソロピックとの契約です。アンソロピックは、自社の対話型AI『クロード』向けの計算能力として、コロッサス 1の容量を利用する契約を結びました。つまりスペースXは、AIクラウドインフラ企業にもなり始めているんです」(森さん)

 そしてもう一つ、スペースXの将来性を語るうえで欠かせないのが、超大型ロケット「スターシップ」だ。再使用可能なロケットとして開発が進められており、完成すれば現行ロケットの5〜10倍もの積載量を宇宙へ運べるとされる。杉山さんは、スターシップの本質を“宇宙の流通業者”と表現する。

「スペースXのロケットは再利用できるため、打ち上げコストを圧倒的に安く抑えられる。だから政府機関や民間企業の宇宙関連の入札では、ほぼスペースXが勝ってしまう状況です。今後、月面基地の建設や宇宙コロニーが現実味を帯びてきたとき、それを担えるのはスペースX以外に考えにくい。つまり、宇宙ビジネスの“事実上の独占企業”になる可能性があるんです」(杉山さん)

 宇宙開発が本格化すれば、衛星の打ち上げだけでなく、月面基地、宇宙ステーション、宇宙データセンター、さらには火星開発まで、あらゆる物資輸送の需要が生まれる。その基盤を握る可能性があるのが、スペースXというわけだ。

なぜ “国家級企業”になれたのか?
火星移住というマスクの野望にも注目

 あまり目立たないが、極めて重要な事業が政府・軍事向けの「スターシールド」だ。これは、スペースXが米政府や軍に提供している、国家の安全保障を支えるための専用の衛星ネットワークである。森さんは、その戦略的重要性についてこう語る。

「一般向けスターリンクの技術を土台にしつつ、最高レベルの暗号化機能や偵察用センサー、軍事用の観測機器などを搭載できる、特別仕様の衛星群です。今後は衛星画像の解析、戦場での通信、軍事ネットワークの最適化といった分野でも、AIの活用が広がっていく見込みです。スターリンク、AI、防衛。この3つの組み合わせは、米政府にとって戦略的な価値が極めて高いのです」(森さん)

 AIと衛星通信、そして防衛を一体で動かすこの事業は、米国の安全保障の根幹に直結する。スペースXが単なる民間企業ではなく、米国の“国家インフラそのもの”に近い存在になりつつある最大の理由が、ここにある。

 ここまで紹介してきた「スターリンク」「コロッサス」「スターシップ」「スターシールド」という4つの事業は、実はすべて一つの最終目標に向かっている。マスク氏が繰り返し語ってきた、“火星に人類を移住させる”という壮大な構想だ。杉山さんは、マスク氏の動機を「人類存続のためのリスク分散」と説明する。

「地球が壊れてしまえば、人類は滅びてしまう。気温の急上昇、太陽の膨張、隕石の衝突といったリスクに備えるためには、人類を複数の惑星に分散させておく必要がある、というのがマスク氏の考え方だと言われています。スペースXの事業は、すべて“火星行きのための原資”という位置づけなんです」(杉山さん)

 一見すると壮大すぎる構想に聞こえるかもしれない。だが、スターリンクなどで得た資金を次世代ロケットのスターシップや火星開発に再投資する循環ができあがれば、スペースXは長期的にまったく新しい経済圏を生み出す可能性を秘めている。

 実際、マスク氏は2024年4月、スペースXの従業員に向けて「およそ20年後には100万人が火星に移住するだろう」と語ったという。夢物語ではなく、20年後という具体的な時間軸で語られているのが、マスク氏の構想の特徴だ。

IPO資金で宇宙&AIをさらに強化!
上場日は6月12日が有望!

 では、肝心のIPOスケジュールはどうなっているのか。森さんが直近の報道と規制要件を踏まえて整理した想定スケジュールは、下の図にまとめた通りだ。

 特に注目したいのが6月初旬。マスク氏自身が機関投資家やメディア向けに事業戦略を直接披露するイベントが予定されているとされる。そして、上場は6月12日となりそうだ。

 今回のIPOで注目すべきは、放出される株式数が全体の3〜4%程度に抑えられる可能性がある点だ。想定時価総額1兆7500億〜2兆ドル(約277〜317兆円)規模に対して、IPOによる調達総額は500億〜750億ドル(約8〜12兆円)前後と予想されている。750億ドル(約12兆円)という数字だけを見れば巨額だが、世界中の機関投資家や富裕層がこぞって買いに動く需要を考えれば、供給量はかなり限られる。希少性が需給を引き締め、IPO価格を押し上げる要因になりそうだ。

 さらに見逃せないのが、調達資金の使い道だ。報道によれば、スペースXはIPOで得た資金の一部を、宇宙ベースのデータセンター開発に充てるほか、その運用に必要な半導体チップの大量購入に振り向ける計画だという。

 つまり今回のIPOは、単なる資金調達ではない。IPOで得た資金で宇宙・AIインフラを増強し、さらに企業価値を高めるという成長ストーリーを伴った、戦略的な上場なのだ。

日本の窓口はみずほ証券か?
個人投資家にもチャンスがある!

 今回のIPOで特徴的なのが、証券会社ごとに担当する「投資家層」や「地域」を分けて販売するという独特の仕組みだ。具体的には、モルガン・スタンレーが小口の個人投資家、バンク・オブ・アメリカが米国内の富裕層、UBSが海外の富裕層、シティグループが海外の機関投資家、といった具合に役割分担されると見られている。そして、日本担当としてみずほ証券が割り当てられるとの報道もある。

「みずほが日本の窓口になるということは、日本の個人投資家がスペースXのIPOに参加できる可能性が現実的になってきたということです。一般的なIPOでは個人投資家向けの配分が5〜10%程度とされるなか、配分の最大30%が個人枠というのは、前代未聞の規模。最終的に日本側にどれだけの枠が流れてくるかは未確定ですが、海外IPOとしては歴史的な機会になる可能性があります」(森さん)

狙いは“マスク経済圏”の拡大!
S&P500組み入れで世界中の投信が買う

 ここで疑問が浮かぶ。なぜマスク氏は、個人投資家への配分を重視するのか。森さんは、その狙いを長期で応援してくれるファンを増やすためと見る。

「これは単なる資金調達ではありません。マスク氏は“マスク経済圏”ともいえる支持者の輪を育てています。テスラを買い、Xを使い、スターリンクを契約し、スペースXを応援する。そういう支持者にIPO株を割り当てることで、“自分も宇宙開発のオーナーの一員だ”という気持ちにさせる。普通の投資家対応というより、コミュニティや国家プロジェクトに近い発想です」(森さん)

 上場すれば、四半期ごとの業績への圧力や、短期で売り抜けたい株主の声が強まる。しかし、スペースXが目指す火星移住や宇宙インフラは、数十年単位の壮大な構想だ。短期で結果を求める投資家とは相性が悪い。だからこそ、長く応援してくれる個人投資家に株を持ってもらい、経営の自由度を守ろうとしていると森さんはみている。

 もう一つ見逃せないのが、S&P500への組み入れ期待だ。S&P500とは、米国を代表する500社で構成される株価指数のこと。世界中の投信がこの指数に連動して運用されているため、組み入れられた銘柄は世界中の投信から自動的に買われることになる。実はスペースXの上場に合わせてS&P500の組み入れルールが改正されるとの見方があり、組み入れ時期が早まれば、巨額の買い需要が発生する。

「これは非常に大きい買い材料です。世界のインデックス投信はS&P500に組み入れられた銘柄を機械的に買わなければなりません」(森さん)

 放出される株式は全体の3~4%に絞られる一方で、世界中のインデックス投信が買いに動く。需給面では、かなり強気の環境が整っているといえる。

スペースX株は買いか、見送りか?
プロ3人の判断は分かれた!

 では、実際にスペースX株は買いなのか。意外なことに、プロ3人の見方は分かれた。

 杉山さんは強気だ。理由は、スペースXが今後の世界経済の中で“他に代わりがない存在”になる可能性が高いからだという。

「これからの宇宙ビジネスは、スペースXが独占するかもしれません。月に行くにしても、月面基地を作るにしても、コロニーを建設するにしても、それらを支えるだけの輸送能力を持つロケットを飛ばせるのは、事実上スペースXしかないといえます。とはいえ、スターリンクは衛星を打ち上げるための初期投資にかなりのお金がかかっているので、まだ累計では赤字です。ですが、これから7〜10年でその初期投資をすべて回収しきると、あとは利用料がほぼまるごと利益になっていく。そうなれば、桁違いに儲かる会社に化けるんです」(杉山さん)

 買い方についても、杉山さんは具体的なやり方を教えてくれた。上場直後の値動きは大きく上下に揺れることを前提に、少額ずつ、時間をかけて株数を増すやり方を勧める。

「上場直後はテスラ株のように値動きが激しくなるでしょう。タイミングを待つよりも、まず少額買ってみて、下がったらまた買うといったように、一度にまとめて買うのではなく、少しずつ買い増していくのがいいでしょう」(杉山さん)

 一方、シアトル在住の元フィデリティ投信の株式アナリストで、米国株分析に定評があるポール・サイさんは、スペースXへの投資に対しては慎重な姿勢だ。

「理由は株価水準が割高だと見ているからです」(ポールさん)

 ポールさんは、成長性が高い企業の株価が高いか安いかを見るときに、売上高に対して時価総額が何倍かという点もチェックする。

「スペースXの2025年度の売上高は155億ドル程度とみられ、想定時価総額は1兆7500億〜2兆ドル規模に達するとされます。一方、エヌビディアの売上高は2159億ドル、時価総額は約5兆7000億ドルです。スペースXの売上高はエヌビディアの10分の1にも満たないにもかかわらず、時価総額はエヌビディアの3分の1程度に迫る水準まで織り込まれていることになります。しかも、エヌビディアは年間約1300億ドルもの当期利益を稼ぐ高収益企業であるのに対し、スペースXは現時点では赤字です。この差を埋めているのは、“イーロン・マスクという経営者への期待”だと見ています。つまり、現在のスペースXの評価額は、実績よりも夢や期待を大きく先取りした水準だといえます」(ポールさん)

 一方、未上場株式の取引やIPO株にも詳しい森さんは、ポールさんと同様に短期的な過熱感には警戒しつつも、杉山さんと同じく中長期では有望だとみている。ただし、買うタイミングには注意が必要だと語る。

「上場直後に株価が大きく跳ね上がり、その後いったん下がって、時間をかけて再び上がっていく。最近の有望なAI関連株には、こうした値動きのパターンが多く見られます。オススメの買い方としては、上場初日に飛びつかず、1カ月くらい様子を見ることです」(森さん)

 IPO銘柄は、上場直後に人気化して株価が急騰しても、その後1カ月以内に利益確定売りが出やすく、いったん値下がりするケースも少なくない。だからこそ、初日に一気に買うのではなく、株価が落ち着いたタイミングで少しずつ買い増していくのが、森さんの考える堅実な戦略だ。

 いずれにせよ、ロケット、衛星通信、AI、防衛、そして火星移住まで、1社でこれほど壮大な事業を手掛ける企業は、世界中を探してもほとんど見当たらない。だからこそ評価は大きく割れ、世界中の投資家の視線を集めている。スペースXのIPOは、単なる新規上場ではない。宇宙ビジネスが本格的に投資テーマとなる時代の幕開けを告げる、歴史的イベントになる可能性があるので要注目だ。

本記事は2026年5月20日時点で知りうる情報を元に作成しております。本記事、本記事に登場する情報元を利用してのいかなる損害等について出版社、取材・制作協力者は一切の責任を負いません。投資は自己責任において行ってください。