後ろ足を上げて排尿するのはオス、腰を下ろすのはメスだ。
80キログラム近いクマが地面を叩くと地面が小揺れして杉の枯れ葉、枯れ枝が飛び跳ねた。
このクマは何かの葛藤が昂じて、どうしようもない風情に見えた。これ以上近寄るなという脅しの威嚇と思うが、遠ざかる私の背中のほうから来ている、この場合は人間と犬を嫌って「早く去れ」と示威しているのだろう。
私にはクマによる初めての威嚇攻撃だった。手順を踏んで私を脅かすクマは面白かった。一段、攻撃性の低い甘味がある野生を感じたものだ。
老猟師が“穀潰しの老犬”を
母グマにけしかけてみると……
1997年3月末、島根県M町の老猟師はある犬のことをこう言った。
「イノシシ狩りによう働いたがのう、老いて役に立たんようになって……そうだ、クマにけしかけてみよか」
1991年の19号台風で倒れたコナラ林を切った斜面に残った切り株の、根が上がってできた穴に母子グマは越冬していた。前の日、ここで下草刈りが行なわれていて、作業員が穴の真横を通ると母グマにほえられて仰天、草刈機をほおり投げて役場に通報していた。
翌日、私と町役場、県の担当者、老ハンターとで状況を判断するために現地に向かった。
60メートルほど離れた穴の前に草刈機が2台転がっている。担当者たちは、クマはもう逃げただろうと楽観的に見ていた。私は、子グマがいるならまだ潜んでいると思ったが、この冬に生まれた子グマか昨年に生まれて2年目を親子で過ごしているかで状況が違うので、慎重に見極めていた。事態が進展しないことに苛立った老ハンターが、犬をクマにけしかけると言い出したのだ。
その大型犬は毛もぼさぼさ、長年の野獣との闘いで顔中傷だらけで精気がなく、目の玉は白濁して涙目だ。その犬が、はたとクマの穴のほうを見て耳をびしっと立てた。老ハンターは犬の雰囲気から穴にクマがいると直感し、共に血がたぎったようで、老人は犬の鎖を外すと犬は茂る潅木をものともせず走った。







