最近は理容とか美容に特化した納棺師もいるようですが、納棺師は髪を切る資格は持っていないことが多いです。私も、もし切ってほしいと言われたときは、プロではないことを理解していただいた上で、前髪や、耳にかかってしまった髪の毛を切ったり、もみあげを短くしたり、と部分的に整えていました。それでも亡くなった方の髪型を気にしていた遺族はとても喜んでくれます。

 納棺師の前職は美容師だった、という方も実はいらっしゃるので、相談すると綺麗にカットしてくれる場合もあります。

覚悟して取りだした
顔剃り用の安全剃刀

 50代の男性の故人はとても髪が短かったので、いつも短くしていたのですか?と二人の娘さんに聞くと、

「実はこの髪、伸びているほうなんです」

 と返事がありました。

「父は髪が伸びるのが嫌で、いつも私たちが剃っていたんです。タイミングが合わずに伸びてしまって」

 とお父さんの髪の毛を申しわけなさそうに触りました。

 頭の中で「うーん」と唸ります。本当は娘さんに、髪の毛剃ってあげますか?と提案したい。だけど全部剃ったらどれくらいの時間がかかるだろう……この後、顔色も血色を足してあげたいし……しかも私が持っている剃刀は、普段娘さんたちが使っているものと違うかもしれない。傷つけたら後悔することになるかもしれない……。

 何秒かの間にいろんなことが頭をよぎりました。それでも「えーい!!」という気持ちで鞄の中にあった、未開封の顔剃り用の安全剃刀を出し、「これしかないのですが、お父さんの髪の毛剃りますか」と言いました。まるで付き合ってくださいと手を差し出した人のように、両手で剃刀を差し出したまま相手の反応にドキドキしています。

「えー!いいんですか?」

 と言う娘さんの声に顔を上げると、二人は顔を見合わせて喜んでいます。

 もう、この時点で、この後どうなろうと言ってよかった、と思えるほどの笑顔です。

 娘さんが「私たちも、いつも剃るときはこれを使ってました」と私の手から剃刀を受け取ると素早く袋をあけて、シェービングフォームを頭に塗り、慣れた手つきで髪の毛を剃っていきます。私が手伝ったのは後頭部の髪を剃る際にお顔を左右、横に向けただけで、あとは二人であっという間に、いつものお父さんの髪型の完成です。