誇り高き文明の旗手であったペルシア人が、砂漠の野蛮人と見下していたアラブ人によって征服された。この事実は、ペルシア人の心に深い傷を残した。
それ以降、ペルシアのイスラム化とイスラムのペルシア化が進行する。巨大なイスラム帝国を建設したものの、支配者のアラブ人たちの統治能力は十分ではなかった。必要な官僚団を提供したのはペルシア人たちであった。アラビア語の文法書を著したのも、歴史書を書いたのもペルシア人たちだった。
そもそもアラブ人はアラビア語の母語話者であるから、文法書など必要としなかった。文法書を必要としたのはアラビア語を外国語として習得する必要のあったペルシア人の方だった。ペルシア人を採用することでアラブ人たちはペルシア文明に浸った。そして砂漠の民が文明の民となった瞬間、イスラム文明が誕生した。
『アラビアン・ナイト』は
アラブ人を揶揄するメタファー
日本人にもよく知られている『千夜一夜物語(アラビアン・ナイト)』は、ペルシア人の目から読むと、武力を持つアラブ人と文明を誇るペルシア人の関係をよく反映している。
これは、毎晩、新妻を迎えては朝には殺害していた王と、シェラザードという英知に富んだ女性の物語である。朝に殺害されないために、シェラザードは興味深い話をした。話は朝まで続き、話が面白く展開しそうになると夜が明けた。王は話の続きを聞きたいばかりに、シェラザードを生かし続けた。翌夜も同じように摩訶不思議なお話でシェラザードは朝まで王を魅了した。こうして、シェラザードの話は千と一夜続き、話が終わった時には王はシェラザードに心を奪われていた、というストーリーである。
王が代表していたのはアラブ人の武力であり、シェラザードが象徴しているのはペルシア人の文明である。語り部の名前のシェラザード自体がペルシア語の単語である。より正確にはシャフルザードである。ペルシア語で読めば、シャフルは「都市」、ザードは「生まれ」を意味している。これはなんとも象徴的ではないか。アラブの砂漠の「野」に対するペルシアの都市の「華」の対比がストーリーに埋め込まれている。







