ただし、その改革については、良いことばかりではなかったという話も聞きました。短期間で黒字化を果たした一方で、それを受け止める人材には相当な負荷がかかっていたのです。赤字会社を立て直すには、やるべきことを明確にし、厳しく実行させる必要があります。しかし、その厳しさが行き過ぎれば、人を奮い立たせる力ではなく、人を追い詰める圧力になります。

 ニデックは、京都の町工場から売上高2兆円を超える大企業へと成長しました。永守さんの強いリーダーシップが、その成長を支えてきたことは間違いありません。しかし、会社が大きくなり、事業が複雑になればなるほど、一人の経営者の経験や判断だけでは捉えきれない問題が増えていきます。だからこそ、経営者には周囲の意見に耳を傾ける姿勢が欠かせません。

優れたリーダーでも
現場の声を無視すれば判断を誤る

 松下幸之助さんは、経営において「衆知を集める」ことの大切さを説きました。経営者がどれほど優れていても、自分とは異なる見方や現場の声を取り入れなければ、判断を誤ることがあります。

 周囲の意見に耳を傾け、必要な修正を加える。その姿勢を失うと、強いリーダーシップは、いつの間にか周囲が何も言えない空気を生み出してしまいます。

 カリスマ創業者の言うことに誰も逆らえない状態になると、正しい意見を言うこと自体がリスクになります。この状態では、取締役会や経営会議が本来持つべきチェック機能も働きにくくなります。

 ガバナンスとは、単に制度や会議体を整えることではありません。異なる意見を聞き、議論し、時には経営者自身の判断を修正するという、手間のかかるプロセスです。その手間を惜しむと、トップの判断が正しいうちはよくても、判断がずれたときに組織全体が修正できなくなります。

「成果」と「結果」は違う

 もう一つ、リーダーが見失ってはならない視点があります。「マネジメントの父」と称されたピーター・F・ドラッカー先生が説いた「成果」と「結果」の違いです。ドラッカー先生は、経営においては「正しい成果」に焦点を当てることが重要だと考えました。

 成果とは、お客さまに良い製品やサービスを提供することです。社内で働く人であれば、周囲の仕事に役立つ価値を生み出すことも成果です。一方、売り上げや利益は結果です。良い成果を出した結果として、売り上げや利益が生まれます。

 もちろん、売り上げや利益は大切です。会社が存続し、社員を雇い続け、次の投資をしていくためには、数字を上げなければなりません。また、売り上げや利益は会社が良い成果を出しているかどうかの尺度でもあります。しかし、売り上げや利益はあくまで目標であって、会社の目的そのものではありません。

 結果である数字ばかりを追いかけると、本来は目標であるはずの売り上げや利益が、いつの間にか目的になってしまいます。そうなると、会社が何のために存在しているのか、お客さまや社会にどのような価値を提供するのかという、一番大切なことが見えにくくなります。