その後、所長が「児童に一時保護を加え、又は適当な者に委託して、一時保護を加えさせることができる」という第33条を根拠に、警察に保護を委託する――という手続きが取られることになっていた。このため、児相側と警察側は綿密に連絡を取り合う必要があったのだ。
10時30分、警察は第10サティアンの2階部分の捜索を開始。同31分には、子どもたちを発見し、「世話人」と名乗る大人の信者に聴取を開始している。同41分には、「氏名はわからないが、小学生くらいの約60人の要保護児童が施設内にいる。中には一見して体の弱った者がいるので緊急に一時保護したい」と、連絡が入った。ただちに、児相の矢崎司朗所長は一時保護を決定。現場の警察官に一時保護を委託した。
警察の通告理由は「4人の女性及び同児童に氏名等を質問するも黙して答えず、また健康状態についても、不良と認められ、更に、保護者についても周囲には同道してなく判明しなかったことから、このまま放置すると児童の福祉に重大な阻害を及ぼすおそれが認められたため」とされている。
このとき、現場の警察官からの連絡は、警察本部にいる生活安全部参事官を介して、児童相談所の次長に伝わることになっていた。ところが、伝言ゲームを繰り返すうちに、保護対象の子どもの数がどんどん膨れ上がっていく。児相側が当初聞いていたのは25人だったが、それが50人になり、60人になり、最終的には75人になるかもしれないと伝えられた。
この連絡に児相側は混乱した。一時保護所の定員はわずか12人。一度に75人もの子どもが来るとなると、県内の児童養護施設に分散して預かってもらうしかない。それには各施設や警察の警備担当者との調整が必要になる。ところが、そんな時間的猶予はなかった。
第10サティアンは子どもの絶叫と
信者たちの怒声に包まれた
10時46分、児相からの委託を受けた警察官によって、一時保護が始まった。
第10サティアンは、子どもたちの絶叫と、信者たちの怒声に包まれた。このとき、オウム側が撮影したビデオテープが見つかった。甲府放送局の赤木雅実記者が入手したものだ。「警察が子どもを拉致!」という刺激的なタイトルで、平穏に生活していた教団施設の中に、国家権力が土足で踏み入り、子どもを無理やり連れ出した……という内容である。







